黒猫亭舊館
黒猫亭主人謹製藏書録・贅言他
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2008.02.26(Mar)08:04  2次前期日程2008
20080225.jpg 800×600 114K 例によりて試験監督。昨年から会場の夕陽丘予備校に、今年は監督のみとて、チャリで出勤。だが、チャリ置き場わからず、しばし迷ふ。
 今年の教室はおよそ80名。なにしろ通路の幅が600-700mmしかないうへ、遠方からの受験生たちが巨大な鞄をおいてゐたりするので、机間巡視もまゝならぬほどだから、問題や答案用紙の配布・回収には大層難渋する――尤も、小生は主任監督委員てふことで、実働部隊は、助っ人にきてくだすった工学研究科の先生方であったが――。
 そして、途中で回収される缺席者調査票にサインをしようとしたら、下敷きのプラスチック・クリップにうっすらと文字の跡が。よく見ると、小生のサインではないか。去年、小生が使ったクリップてふ訳であった。

(試験を終へて帰途につく受験生たち。外でなにやら配ってゐるオレンジ部隊は、生協のひとびと)
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2008.02.26(Mar)06:02  若島正『ロリータ、ロリータ、ロリータ』(作品社)
ロリータ、ロリータ、ロリータ

ロリータ、ロリータ、ロリータ 川上未映子つながりてふわけではないが、ナボコフ学者――にして、チェス・プロブレム(詰チェス)作者でもある――若島先生の、『ロリータ』読みの方法のガイドを、じつに些細な細部を読み解く試みで示した「実用書」。コラムもあるし、論の「補足」も充実――「補足の補足」まである――してゐる。当然ながらネタばれ満載なので、『ロリータ』の既読者しか読んではいけないが、既読者はぜひ読むべきであらう。いや、厳密に云ふなら、「既再読者」しか読んではいけない。
 本書のタイトルの由来は最終章の末尾であきらかになるわけだが、その章に書かれた「3つのロリータ」も指してゐることはいふまでもない。そして、後書きのタイトルはもちろん、「『ロリータ、ロリータ、ロリータ』と題する書物について」だ。
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2008.02.25(Lun)07:49  川上未映子『乳と卵』(文藝春秋)
乳と卵

乳と卵 芥川賞受賞作の中篇に、『文學界』3月号に掲載されたばかりの短篇をたして、速攻で書籍出版。文春、燃える商魂である。まあ、これくらゐの商魂は、駭くには及ばぬてふべきか。そもそも単行本4冊目の彼女であるが、出版社はすべて異なってをり、河出が囲ひ込んでゐるかのやうになってゐる綿矢りさのやうにはなりさうもない。とは云ひ条、ブログを見てゐるかぎり、仕事量は爆発的に増えてゐるやうであり、だいぢょぶかいなてふ危惧は消えない。しかし、永井均はもちろん、入不二基義とも対談してゐるとは。頼もしいことではある。
 ちなみに表題作は「ちちとらん」と読む。些かストーリー性が増した感あり。
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2008.02.19(Mar)05:38  「ここだけのふたり!!」復活
 もともとは「ぼのぼの」(いがらしみきお)を読むつもりで買ひはじめた竹書房の『まんがくらぶ』――通称「まんくら」――てふ月刊誌に掲載されてゐたのが出会ひであった。さう、現在は毎日新聞の4コマもやってゐる森下裕美――このひと、『ジャンプ』と『ガロ』てふ両極端な雑誌でデビューしてゐる――の「ここだけのふたり!!」、通称「ここふた」である。
 その後、「ここふた」は、「ぼのぼの」の後を継いで表紙を飾るまでの人気連載となるが、2002年12月号をもって突如休載。単行本が2001年12月号分までしか収録してゐない――第9巻。ちなみに、第1巻は、最初1989年10月にハードカヴァーで出され、91年に廉価版で出し直されてゐる――にも拘らず、残りを未収録のまゝ絶版となってしまったことからも、竹書房となにかあったことが推察されてゐる。
 その「ここふた」が6年ぶりに復活を遂げた。掲載誌は、本日発売の『漫画アクション』。現在、「忍者パパ」(山本康人)や「この世界の片隅に」(こうの史代)などが連載中の隔週刊誌である。麗々しく表紙をかざり、巻頭カラーてふ扱ひからも、「ここふた」の人気のほどがうかがへるが、彼女はこの雑誌に、文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞と手塚治虫文化賞短編賞を受賞した話題作「大阪ハムレット」を連載してをり、双葉社としては、森下作品の強力な後継として「ここふた」を据ゑたと考へるのが妥当な線であらう。
 しかし、一読一驚。状況が変はってゐる。妻は妊娠中、夫婦は新居を購入して、そこにそれぞれの母たちと同居してゐるのだ――生徒の方は、かつての連載終盤から固定されてゐたが、あひかはらず清宮やチカたち――。そして、なんといふても、かつての愛読者たちが駭くにちがひないのは、これまで詳らかでなかった夫と妻の名前が明らかになったことであらう。「加藤学」と「加藤美奈」。これがふたりの名前だったのである。なにしろタキエさんが吃驚してゐるくらゐだから、われわれの駭かぬわけがない。しかもタキエさんが「早く名前なじむといいね」と云ふてることからもわかるやうに、夫婦自身も固有名に慣れてないのであった。
 とまれ、復活万歳である。ノリも変はってゐない――冒頭から「かしまし娘」「ちゃっきり娘」「フラワーショウ」ネタをかましてるし――。今後、やはり隔週の『ヤングアニマル』――「3月のライオン」(羽海野チカ)と「デトロイト・メタル・シティ」(若杉公徳)を愛読中――にくはへ、『アクション』も買ってしまふのであらうか、オレ?

追記。
よく見たら、アクション版のは「ここだけのふたり!」と、ポワン・デクスクラマスィヨンが1本になってゐるではないか。版権の関係か、はたまた、前作とは別ワールドなのか……??
  • ことみ (2008/02/19 08:31)
    うれしい・・・・。あとは未収録の分を収録してコミックにしてくれたら文句なしです。
  • 黒猫亭主人 (2008/02/19 12:40)
    ことみさんは反応してくれるやらうと思てましたわ。笑
  • ことみ (2008/02/21 08:02)
    1本から2本ではなく逆ですね。竹との揉め事回避策?ちなみに山本康人もこうの史代も好きですので、アクションがだんだん身近になりました。
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2008.02.18(Lun)01:25  鴨沢祐仁『お父さんのクリスマスツリー』(架空社)
お父さんのクリスマスツリー

お父さんのクリスマスツリー その昔、『ビックリハウス』てふサブカル雑誌があったが、その晩期の表紙を描いてゐたのが鴨沢祐仁である。イラストの仕事も多かったが、そもそもは『ガロ』系の漫画家。半ズボンの少年クシー君と兎のレプス君による稲垣足穂的世界は、最初素朴リアル系だった絵柄もポップ・キュート系に変じて、益々ファンタジーめいたものになってゆき、商業デザインにも採用され、知る人ぞ知る有名作家となった。足穂好きの小生はこの人も好きであったが、まさか、この1/12に亡くなってゐようとは。死因は自宅で転倒したこと。享年56歳。発見されたのは18日のことであったといふ。遺作となった本書の製作にかんする諸々もブログで綴られてはゐるが、鴨沢ファンとしてはやはり驚かざるを得ないのは描線の変化であらうか。
 1/8づけで途切れてゐるブログの最後のエントリーでは、急遽転居せねばならなくなったのだが、予算的には狭い部屋しかないてふことを嘆いてをり、文章は「鬱である」で始まり、「鬱である」で終はる。彼は鬱病患者でもあった。
 彼の公式サイトに残されてゐる――しかし、このサイトは、いつまで残り得るのであらう……?――2002年からの日記を読むと、アルコール依存的生活とそれによる失敗、失恋、退職、新たな恋愛などの事情が具さにわかる。とりわけ、2005年は8/21から11/22まで大きな空白があるが、そこには、本書の絵を描けなくなってしまひ、自殺を試み、そのまへに彼女――郷里に残るかつての同級生。「ひとみちゃん」としてブログに頻繁に現はれる。前年に婚約までしたのに、まだ30年ぶりの再会を果たしてゐなかったのである――に会ひたいと、故郷にでかけ、そこで再び生きる道を選んだてふ事情があった。

 生まれて初めて味わう挫折。今迄、何度となく人生の危機(失恋、ペロの死、自己破産等)をくぐり抜けてきたが、絵が描けないというのは初めてだ。絵の描けない自分は、アイディンティティーを何処に求めればよいのか?(2005/11/23のブログ)

 そのやうな危機を乗り越えて、この『お父さんのクリスマスツリー』は2006年7月に完成、同年12月に刊行された。しかし、鬱と貧困は、彼の創作意欲を蝕む。愛読者からファン・レターをもらった日のブログには、かう書かれてゐる。
しかし、彼は知らない。ぼくが鬱病患者であることを。貧困から、創作へのモチベーションを失いかけていることを。そして、「クシー君」シリーズの出版物は全て絶版で、出版社へのコネも無く、新作を描いても発表する当さえ無いことを。
 ぼくは、この無邪気なファンレターへの返事を書きあぐねている。(2007/12/27のブログ)

 だが、大晦日には、

 2007年、良かったこと、ひとみちゃんと3回逢えたこと。悪かったこと、1秒も仕事をしなかったこと。(2007/12/31のブログ)

と記した彼も、翌元旦には、かう書いた。

はて今年はどんな年になるのだろう?それを考えると、また鬱になるので元日ぐらいは全てを忘れて飲むことにしよう。
 おせちを平らげ、午後10時、就寝。

 去年今年メールで繋がる恋ありき
 元日やおせちにバーボン身に余り (2008/1/1のブログ)

 そして、亡くなる少しまへ、彼は誕生日を迎へてゐる。

1月7日(月) 雨後晴れ

 56歳になる。

 人日に五十と六つを数へけり
 人日や余白のごとき時の意味

 創作への想ひを抱きつゞけたまゝ、それを果たし得ない時間を自虐的に述べた彼の余白は、しかし、あまりに短かったのである。

公式サイト「XIE'S CLIB」
http://www.kamosawa.com/

ブログ「鴨の水掻き」
http://blog.goo.ne.jp/kamonegi_001

 贅言ひとつ。プロバイダの契約は、入金が途絶えた時点で解約され、サイトもなにも消滅するであらう。しかし、goo blog のやうな無料サーヴィスの行方はどうなるのであらうか……?
  • 黒猫亭主人 (2008/12/04 07:35)
    その後、有志たちの手によって、コンテンツごと別サイトに移転。現在、公式サイトからはリンクが張られてゐる。
    http://www.geocities.jp/xiesclub/
    「人は死して名を残す」のみならず、作品も残る。そして、たくさんのファンもまた。
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2008.02.13(Mer)06:16  集中講義@山口大学

 先週金曜、新幹線上の人となりたる小生、新山口駅にて下車す。ただちに山口線に乗り換ふ。車輌二つの単線なり。目指すは六駅目の湯田温泉。山口大学の最寄り駅なり。

 てふわけで、2/9-12の四日間、武本先生に呼んでいただいた山大で集中講義。諸々の都合により三連休中になったにも拘らず、学生さんたちも熱心に参加してくれてありがたいことではあった。受講生のひとりには、「是非また来てください!」とか云はれたが、なかなかそんなわけにもゆくまい。時節柄、国立大学法人は、どこでも非常勤の予算も厳しいのだ。

 湯田温泉の街はこぢんまりとしてゐたが、山大は広い。学生はほとんど下宿生で、みんな自転車を持ってゐる。三連休で学食があいてないため、毎日、外へ食事に出たが、往復するだけで30分弱はかゝるのであった。

 そして、湯田温泉といへば、ご当地出身の中原中也。生家がモダンな記念館にもなってゐる。丁度、「中也とフランス文学」展を開催中。昔は、フランスに憧れ、フランス語を学ぶ人の如何に多かったことがよくわかる。中也も、外語学校で仏語を学んだ後、死の間際まで、通信教育も受けてゐたのだ。仏語にとって、往年の栄光ではある。

(写真1: 山大正門)
(写真2: 古風な店構への外郎屋さん。じつは外郎、山口の名物でもある。右奥に見えるのがモダンな中也記念館)
(写真3: 明治維新の大立者・井上・聞多・馨の屋敷跡である高田公園。中也記念館にほど近く、中也の詩碑が立つ。刻まれてゐるのは、

 これがわたしの古里だ
 さやかに風も吹いてゐる
 あゝおまへは 何をして來たのだと
 吹き來る風が私にいふ

「帰郷」の一節である。ちなみに、この奥には、これも山口ゆかりの種田山頭火の句碑が立つ)
(写真4: 中也記念館の隣のお店)
(写真5: 五重塔で有名な瑠璃光寺境内を含む香山公園内に移築された枕流亭。薩摩から――現在、「篤姫」でもお馴染み――小松帯刀、西郷隆盛らが訪れ、薩長連合の密議がなされたところである。元は、山口市中央部の道場門前の一の川沿ひにあったため、「流れに枕す」と名付けられた。しかしながら、本来「漱石枕流」とは「強情で負け惜しみの強いヘンコ」の謂。詳細はコチラ
  • ことみ (2008/02/14 20:52)
    先生の授業受けたことないですー。もったいない・・・。
  • 黒猫亭主人 (2008/02/18 01:37)
    ことみさん、いつでもモグれるやん。
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2008.02.07(Jeu)06:53  Soutenance 2008
 怒濤の一週間、月末〆の仕事が重なりまくり、ついでに諸々挿入仕事もあって、いまだに全部終はらない。関係諸方面の方々すいませんすいません。しかも明日から出張、来週には会議と大学院入試と会議と会議と……。

 さて、昨日は修論と卒論の口頭試問。最終試験である。今年は〆めて6名、小生の主査は2名(ベケットと移民)だが、残る4名は副査てふことで、津川先生とともに全部担当で、6時間――予定では4時間だったのだが――坐わりっぱなし。しかしまあ、今年も力作揃ひで、先生方の評判も上々であったのは愛でたし愛でたし。そして毎年思ふのだが、卒論はこれで終はっちゃふのが勿体ないこと勿体ないこと。多くの――仏文の――学生さんたちは、可能性を見せつけて卒業していってしまふのであった。
  • yutaka (2008/02/07 22:54)
    昨日は長々とありがとうございました。今まで本当にお世話になりましたが、来年からも何かとお世話になることと思います mdr
  • しょうこ (2008/02/11 17:02)
    お世話になりました。「ベケットと移民」っていうタイトルみたいに見えますね。可能性を見せつけただけでごめんなさい。
  • 黒猫亭主人 (2008/02/18 01:37)
    まあ、人生、死ぬまでベンキョーやさかい。
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