巴里便り

L'Ile Saint-Louis 篇

(2000/07/29-31)


2000/07/29
 A 孃がメシを食はんてへるによりて、サン・ルイにて落ち合ひ、その後、日本料理屋へ。されど、目當てのルーヴル近邊の店は滿員なれば、更に歩きて、着きたる所は、先だってK さんに連れてきて貰ひし「北海道」。但し、前囘は休みだった方の店(北海道、二店舗竝びたり)に入りぬ。ナカナカ繁盛せり。A 孃に、こゝは中華系だと教へたれば、些か驚きぬ。證據が二つ。一つは、「北海道丼」(丼とは云ひ條、平皿に盛らる)に、「中華海鮮丼」てふ漢字の添へられたること。二つは、壁の品書きに「マポ丼」と書かれたる貼り紙のあること。長短と b/p 音が區別されざるは、日本語話者の手にならざること明白なり。勿論、味は良し。
セーヌの川船 セーヌの夕暮れ リボリ通り 「北海道」
セーヌの川船 正面はスィテ島 ルーヴル前、リボリ通り 2 區。突き當たりに「北海道」
勝利廣場 カフェ「ル・ガヨン」 薄暮のセーヌ 「フランスニュースダイジェスト」
Place des Victoires (ヴィクトワール [勝利] 廣場) 老舗カフェ、Le Gayon (ル・ガヨン) ルイ・フィリップ橋から。22:30 週刊『フランス・ニュースダイジェスト』紙
 「日本」料理店なれば、日本語新聞やら日本語情報紙誌なども置きたり。こゝにて、日本語週刊新聞『フランス・ニュースダイジェスト』を持ち歸る。此は、その名の如く、フランスを中心とせるニュースを日本語にて記せるものなれば、語學力の貧困その他により、佛語ニュースや新聞にて詳細判らぬ場合に重寶なり。
 一面トップは、勿論、コンコルド墜落事件なり。このサイトのいつ迄存續せるや知らねども、リアル・タイムならざる人のために記さば、7 月 25 日に、シャルヽ・ド・ゴール(ロワスィ)空港を飛び立ち、ニューヨークに向かへる超音速旅客機(マッハ 2)コンコルドの、離陸直後、一つのエンジンより火を噴きて、忽ち、空港近郊の街 Gayssot(ゲッソ)のホテルに激突、乘客・乘員(109 名)、加へてホテルのお客さん等(4 名)の亡くなりたる事故なり。英佛兩國共同開發の「コンコルド」(concorde 和合)は、1969 年初飛行、1976 年に就航して以來これが初めての大事故なるが、抑々「燃料喰ひ」「一度に多量の客を運べず」「衝撃波を生ずるゆゑ、コース限定」等諸々の制約がため、英國ブリティッシュ・エアウェイズが 7 機、佛國エール・フランスが 6 機の計 13 機しか、この世に存在せず、その悉くが「30 年選手」にて、老化せることの分明となりて、連關性を云々されたり。


2000/07/31
 『ル・モンド』に日替はりにて付いてくる別冊特集の一つなる Le Monde interactif (ル・モンド・アンテラクティフ)はニューメディア關係の話題を扱ふものなるが、前日のは、Sur la piste du @ dans la Venise du XVIe siecle (スュル・ラ・ピスト・デュ・@・ダン・ラ・ヴニーズ・デュ・セズィエーム・スィエークル 16 世紀のヴェネチアに@の痕跡)てふ記事載せたり。
 此は、ローマの研究者が、16 世紀の商人の書翰裡に、「@」の先祖を發見せりてふものにて、イタリアのニュース・サイト la Repubblica.it 報じ、寫眞載せたり。成程、@なり。
 抑々讀み方からして判然せぬこのマーク、米國發の at の他、イタリアでは chiocciola (キョッチョーラ)、スペインにては abora (アロバ)、こゝフランスにては arobase (アロバズ)、他にも「猫の尻尾」「猿の尻尾」等々、數多の呼稱を有したるが、その起源につきては、未だ闇の中なり。
 這般(しゃはん)の消息をマクラに、電腦用語の歴史と現在の用法を解説せる Alain Le Diberder (アラン・ル=ディベルデール)の本 Histoire d'@ -- L'abécédaire du cyber-- (イストワール・ダロバズ――ラベセデール・デュ・スィベール―― @の歴史――サイバー用語の ABC――)[2000/04, La Découverte, Paris] によれば、中世の書字生(テクストの書寫のプロ)あたりが、ラテン語の ad (アド=現在のフランス語にて à、即ち at の意)を符號化したるが初めならんとの假説を呈せり。
 扨(さて)、フランス語の arobase はスペイン語の aroba に由來せるが、これはアラビア語由來の重さの單位にて、凡そ 12.8kg を示せり。スペインにて@を aroba の代はりに用ゐたるは、16 世紀なりと云ふ。前出の寫眞の@は、明らかにこの重さの單位なれば(兩取手付壺 amphora アンフォラ 一つ分)、上記の@は些(ち)っとも祖先に非ず。既にズレちゃった時代の用例なり。結句、それ以前の物的證據ない以上、決定的事實は不明のまゝならん。
 オマケ:上記の『@の歴史』の Mail の項目では、今に "Tu n'a qu'à me l'envoyer par le mail" (テュ・ナ・カ・ム・ランヴォワイエ・パル・ル・メール そいつをメールで送ってくれりゃいゝよ)てふ代はりに "Tu n'a qu'à me le mailer" (テュ・ナ・カ・ム・ル・メイルレ そいつをメールしてくれりゃいゝよ) てふやうにならん、と書かれたり。






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