巴里便り

L'Ile Saint-Louis 篇

(2000/07/15-21)


2000/07/15
 漸く原稿上がりたれば、芝居に。モンパルナスの近邊、14 區は Boulvard Édgar Quinet (エドガール・キネ大通り)なる Théâtre Édgar (エドガール座)は、然程大きからぬ建物を二つに割りて、無理矢理二部屋の劇場を作りたり。當然、中は小さく、扉を潛れば即舞臺にて、間口 2.5 間×奧行き 1.5 間程、タッパは舞臺上 2500mm にて、甚だ低けれど、照明機材は比較的多く、10 發程を吊り込みたり。特筆すべきは客席にて、半圓形のアリーナが窮屈に 6 段ほど。『パリスコープ』には「キャパ 100」と書かれたるが、實際は 70 這入れば良いとこならん。こゝにて 2 本を觀ぬ。
「虎」の舞臺 客席 エドガール座
「虎」の舞臺。天井に這はせたる赤パイプも裝置。これらを日々建て込み、バラす 客席 壁に繪の描かれたるエドガール座は、モンパルナス・タワーの極く近所
 1 本目は略々(ほゞ)滿席。出し物は、Le Tigre (ル・ティーグル 虎)(作・Murray Schisgal マレー・シスガル/演出・Sophie-Anne Lecesne ソフィ=アンヌ・ルセーヌ)。宣傳惹句には「『トッツィー』(Tootsie) の作者による、これぞアメリカ喜劇」とあり。このシスガルの「虎」は、嘗て小生が紅顏の學生さんなりし頃、大阪市立大學の劇團カオス(尚、小生の所屬せる學生劇團は、カオスから飛び出せる先輩の興せるものにて、「劇團夢現代(むげんだい)」てへり。當時の仲間、後に浪花グランドロマンの母體となりぬ)の上演せる作品にて、甚だ懷かしき想ひに驅らる。たゞ、この作品、「タイピスト」てふ作品と二本立てにて上演するのが通常と云はれたれば、單獨上演は眼連(めづ)らし。
 ストーリーは、スペイン語出來ずに學者への道を斷念せる三十男、人妻を誘拐し、彼女に命令することで精神的優位を保たんとせるが、彼女は反發、二人の關係は逆轉し、軈て通ひ合ふものが生まれ……。
 小さき舞臺にちゃんと舞臺裝置も立て、雰圍氣は良けれど、この男役も例によりて大仰なる演技。喜劇とは云へ、も少し他のやり方は無きか? 因みに、男優さんと女優さん、芝居後、仲良く 1 臺のバイクにて歸れり。カップルなるか?
 尚、この芝居は入場料半額。これは、初日から 2 週間程、客寄せのために行なはれる割引にて、「開幕期間特別割引」とでも云ふべきか。75 分。
 2 本目は La Quarantaine rugissante (ラ・カランテーヌ・リュジッサント 吼える四十歳)(演出・Jean-Paul Muel ジャン=ポール・ミュエル)。Josiane Pinson (ジョズィアーヌ・パンソン)の一人芝居なり。歌に始まり、幼稚園の園長、精神科醫 (psy プスィ)の許にカウンセリングに訪れし女、逆にカウンセリングせる精神科醫、愛されてる女抔 12 のコミカルなスケッチのオムニバスにて「40 歳の女」を描きてみせ、最後にしっとりと不治の病の戀人の許を見舞ひたる女を演じ、歌にて〆る、てふワン・ウーマン・ショウ。短髪長身痩躯(1800mm)の彼女、一見ゴツイをばさん風なるが、千變萬化、最後は(照明效果もあれど)しっとりと見せたるは、流石ヴェテランなり。70 分。


2000/07/16
 本日は FIPF (フィプフ Fédération Internationale des Professeurs de Français フェデラスィオン・アンテルナスィオナル・デ・プロフェスゥール・ド・フランセ 國際フランス語教授者連合)の第 10 囘世界大會初日前日にて、受付のみ開始さるれば、會場たる Palais des congrès (パレ・デ・コングレ 會議の殿堂)へ向かふ。
パレ・デ・コングレ パンフ等の詰まりたる鞄の山 鞄
Porte Paillot (ポルト・マイヨ)なるパレ・デ・コングレ 配布される鞄。中身はパンフ抔。AATF(American Association of Theachers of French) は團體さんゆゑ、一棚占領せり 鞄には携帶入れも付きぬ
 オリンピック同樣 4 年に一度開かる世界大會、前囘は東京にて開催、1000 人を集めたり。此度は本據地の開催なれば、全世界より 3000 人のフランス語教師集ひて、今囘のテーマ、modernité, diversité, solidarité (モデルニテ・ディヴェルスィテ・ソリダリテ 現代性・多樣性・連帶)の下に、教育の小技、文法や發音の教へ方、文化、テクノロジー(インターネット關係花盛りなり)抔の數百の發表 (communication コミュニカスィオン) 行なはる。
 14 時より受付開始なれば、まあ、30 分遲れぐらゐかと思ひてゆきたるに、未だ貼り紙貼ってたりする最中にて、1 時間遲れなりき。流石フランス人。前囘の東京大會の折りの理事務めたる先生なぞ大いに憤慨せり。
 フランスの住所にて申し込みたる小生は、ヨーロッパの受付にて受け付けられ、名札を貰ふと、國名、當然「フランス」となりてありて、この學會中、小生はフランス人てふことになりぬ(序でに、名字も FOKUSHIMA と間違ひたり。加へて、屆いた郵便物には、Madame と冠されぬ)。


2000/07/17
 大會初日は、開會式と何やら映畫 Paristoric (パリストリック)、即ち、パリ歴史の旅なり。開幕ゲストは大統領特別顧問も務めたる著述家 Jacques Attali (ジャック・アタリ)。著書多數、邦譯書もあり。その後、映畫。上映中、フラッシュ炊いて寫眞撮る者多數。そんなことしても寫らんの、判らざるか? フランス語教師にもアホ多し(途中、フラッシュ炊くなの聲上がりぬ)。
大階段室 開會式 ごったがへすロビー テレビ・クルー
大階段室 開會式 ごったがへすロビー テレビ・クルーも
RER サン・ミシェル驛 RER の車體とホーム 大階段室の舞臺 ジャック・アタリ
パレ・デ・コングレには RER でも行ける。サン・ミシェル驛 プラットホームの低ければ、必ず段差あり。尚 VICK とは列車名 無人の舞臺 ジャック・アタリ


2000/07/18
メトロのシャトレ驛 鳩の群 止まり鳩
メトロのシャトレ驛内、路上コンサート 無茶苦茶多き鳩 背後はサン・トゥスターシュ教會


2000/07/19
マルク・ウィルメ カナダ防衞廳製フランス語學習ソフト
「文法の擁護」てふ發表中、かの Marc Wilmet (マルク・ウィルメ) 新開發の學習ソフト。但し、カナダ防衞廳製で、非賣品
 午、會場内の臨時ビュッフェ・コーナーにて購ひたる食事を攝るべく、テーブルの一つに坐わりぬ。机上には、パンの籠と水のペット・ボトルと共に、芝居のチラシ置かれたり。見れば、月の頭に觀たる「終はり良ければすべて良し」なり。オヤオヤと思ふ間もなく、何やら話し掛けてきたるをばさんあり。聞けば、この芝居の宣傳なり。既に觀た、と答へたれば、彼女驚きて、自分はあの時の伯爵夫人なりと云ふ。良く見れば慥かにさうなり。素敵な芝居であったと云へば、他人に吹聽せよと云ひて去りぬ。學會に迄情宣とは、フランス語教師なればシェイクスピアや野外芝居に關心持てると考へたるか。見上げた心懸けなるが、何人が觀に行きたるや。
 午後最終の K さんの發表聞ける後、K さんに連れられ舊 BN (Bibliotèque Nationale) の近邊へ行き、「北海道」てふ日本料理屋(但し、中國系經營)にて晩飯を奢って貰ひぬ。


2000/07/21
 午前中はテクノロジー關係の發表。Y さんのイントラネット・システムの發表を聞きにゆく。システム組みたる會社の技術屋さん同伴なりき。この技術屋さん、發表終了後、いや、パリってほんと素敵な街ですね、毎日夢みたいです、と頗る感激の體(てい)にて去れり。
招待状 クレール・ブランシュ=バンヴニスト アフリカの聲 ジャック・ラング
パリ市長からの招待状。忘れても名札あらば這入れた樣子 「ロマンス語同時學習」について發表中、Claire Blanche-Benveniste (クレール・ブランシュ=バンヴニスト) 「アフリカの聲」 お祭り大好き男、ジャック・ラング
ジョスパンとラング リオネル・ジョスパン オテル・ド・ヴィル裏口 市長挨拶の間
社會黨の大立て者二人。中央ジョスパン、右端ラング プログラムには載ってない首相の挨拶 オテル・ド・ヴィルの裏口に集合 既に滿杯。市長挨拶の間
タピスリー カーテン飾られし入り口 パリ市の紋章 モニター裡のジャン・ティベリ
兩壁を飾るタピスリー (tapisserie) 奧の間への入り口 パリ市の紋章 奧に這入り切れぬ人々のためにモニターあり。ティベリ市長
ごったがへす手前の部屋 世界中のフランス語教師 ロムルスとレムスの像 世界の國からぼんじゅーる
奧に料理と飲み物あり 世界中のフランス語教師 狼に育てられるロムルスとレムス。即ちローマ創設神話。ローマ文化の直系を自認せるフランス人なれば、市廳舎にありても不思議無し 世界の國からぼんじゅーる
 午後は閉會式。午後一はエジプト出身の前(さきの)國連事務總長にして、國際フランス語圏協會事務總長 Boutros Boutros-Ghali の講演、その後 Voix de l'Afrique (ヴォワ・ド・ラフリック アフリカの聲)てふグループのコンサート、更に現在の文化(研究・技術)大臣 Jack Lang (ジャック・ラング)の演説、加へて、飛び入り乍ら、何と Lionel Jospin (リオネル・ジョスパン)首相の挨拶にて、コングレは終はりぬ。
 18 時よりは、オテル・ド・ヴィルにて立食パーティー。招待者は、現市長 Jean Tiberi (ジャン・ティベリ)。來年の市長選にて與黨 RPR(Rassemblement pour la République ラッサンブルマン・プール・ラ・レピュブリーク 共和國連合) の公認を取れざりし上、過去の選擧にて選擧人名簿を水増し、故人迄投票させてたとスッパ拔かれて非難囂々、泣きっ面に蜂かと思ひきや、居直ったティベリ、RPR の連中の過去の惡行を逆告發、來年の市長選にも立候補すると宣言。八方破れのジャックなり。
 行きたれば、市長の挨拶せる奧の間は既に滿杯。挨拶終了せるや、部屋の端のテーブルに殺到、シャンパンだのジュースだのカナッペだのを瞬く間に略奪。テーブルに近付くも難事なれど、テーブル前にはどこやらの国のをばさま方陣取りてありて、新たに届けられしカナッペをば、速攻でガメてしまひぬ。小生は結句、シャンパン口にせるのみ。
 軈て三々五々と歸れる中、Y さんの發表時に知り合ひになりたる R さん(留學中)、S さん(この春迄留學)と再會。ドイツでフランス語教へてるフランス女性 C さんも加はりて、談義は果てず、オテル・ド・ヴィル追ひ出されたる後、歩いて 8 分の我が家にて、食事をすることに。お陰で、知己も得、圖らずも部屋の掃除もなし、大いに有り難し。






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