巴里便り

L'Ile Saint-Louis 篇

(2000/08/01-02)


2000/08/01
フォーロム・レ・アール
フォーロム・レ・アール サン・トゥスターシュ教會の前にて何やらのロケ中。刑事物? 教會の木陰で一服する人々 Rue Jean-Jacques Rousseau (ジャン=ジャック・ルソー通り)
 歴史の街パリには、數々の中世遺跡も殘りたるが、その一つが Capet (カペー)朝の Philippe II (フィリップ・ドゥー 1165-1223)、即ち Philippe Auguste (フィリップ・オギュスト)の城壁遺構。何しろ Augustus (アウグストゥス=崇高なる者)てふ渾名(あだな)を頂戴するくらゐなれば、喧嘩に強いことこの上なく、彼の時代に、イギリスの大陸領土なりし Normandie (ノルマンディー)、Maine (メーヌ)、Anjou (アンジュー)、Poitou (ポワトゥー)てふ西佛の地を奪ひ返し、Champagne (シャンパーニュ)と Aubergne (オーベルニュ)も「王領」に併呑、加へて例の異端カタリ派 (Cathari 善惡二元論に立ち、肉體は靈魂を閉じ込める牢獄なるがゆゑ、現世を否定。急進派は「輪廻轉生」を信ぜり。因みに cathari とは「清純」の意味。てふことは、ギリシア語の katharsis 純化と同語源)討伐に名を借りたる croisade des Albigeois (クロワザード・デ・ザルヴィジョワ アルヴィジョワ十字軍)にて、南佛地域を蹂躙、フランスの南北の優劣を決定的にせるも彼なり。
フィリップ・オギュストの城壁 ジュール通り サン・トゥスターシュ教會 オ・ピエ・ド・コション
フィリップ・オギュストの城壁(出典:D. Chadych & D. Leborgne (1999) Atlas de Paris, Parigramme: 33)、及び今囘の撮影地點。當時のパリはたったこんだけ 1. Rue du Jour (リュー・デュ・ジュール [その日通り]) 2. Saint-Eustache (サン・トゥスターシュ)教會正面 3. 教會の西側なる有名レストラン Pied de Cochon (ピエ・ド・コション 豚の足)
商品取引所 2 エキュ廣場 ギャルリー・ヴェロ・ドダ サン・トノレ通りの空きビル
4. Bourse de Commerce (ブルス・ド・コメルス 証券取引所) 5. Place des 2 Écus (プラス・デ・ドゥー・ゼキュ 2 エキュ廣場)。因みに「エキュ」は古への銀貨名。フランスが歐州通貨單位を ECU (European Currency Unit) にせんとて、EURO に敗れたるは有名なハナシ 6. Galerie Véro Dodat (ギャルリー・ヴェロ・ドダ) 7. Rue Saint-Honoré (サン・トノレ通り)のビル。何故か 10 年前から空き家らし
ルーヴル方形中庭 セーヌの日光浴者達 ポン・デ・ザール アカデミー・フランセーズ裏から
8. ルーヴル方形中庭の南側門横 9. セーヌ右岸の日光浴者達 10. お金を落とすと拾へない Pont des Arts (ポン・デ・ザール 藝術橋) 11. Palais de l'Institut (パレ・ド・ランスティテュー 學士院の殿堂=アカデミー・フランセーズ)裏から
マザリーヌ通り 駐車場裡の城壁その 1 駐車場裡の城壁その 2 駐車場裡の城壁その 3
12. Rue Mazarine (マザリーヌ通り) 13. 駐車場の地下一階に殘されたるフィリップ・オギュストの城壁 14. 同地下二階の殘存城壁 15. 地下二階から地下一階を望む。一應、ライト・アップ
駐車場 古さうな店 コメルス・サン・タンドレ中庭 ダントン像
16. この駐車場の中に城壁殘れり。通りに市の看板あり 17. Rue St-André des Arts (サン・タンドレ・デ・ザール通り)角の店 18. Cour du Commerce St-André (コメルス・サン・タンドレ中庭) 19. Place de H. Mondor (H. モンドール廣場)の Georges Jacques Danton (ジョルジュ=ジャック・ダントン 1759-94)像
ムスュー・ル・プランス通りの古い建物 パリ大醫學部 パスカルの舊家 コンサート待てる人々
19. Rue Monsieur le Prince (ムスュー・ル・プランス通り)の舊家 20. École de Médecine (エコール・ド・メドスィーヌ 醫學校=パリ大學醫學部) 21. Pascal (パスカル)の住まひし家 コンサート開始 1 時間前
踊る姉妹 曲の間 舞臺に侵入する子 小父さんバック・ダンサーズ
踊りたるうちに、舞臺に上がり込み、到頭前面に出てゆきて、止められたる姉妹 曲の間 子供も寄ってくる。左の顏突き込める子は 2 度舞臺へ侵入し、1 度目はお父さんに、2 度目はお母さんに抱へられて強制退去 明らかにバンドのメンバーに非ざる小父さん達、背後に居竝びて手拍子を打つ。エジプト縣人會か?
踊る小母さん かごめかごめ? 踊る女の子 ノリノリ状態
小母さんも舞臺に上がってきて踊る 何故か「かごめかごめ」状態の小父さんバック・ダンサーズ 下でも踊る女の子達 ノリノリ
 本日は天氣も良ければ、このフィリップ・オギュストが作りたる 12 世紀のパリの城壁跡を巡らんとの企てなり。勿論、現代の道は城壁跡通りに走りたらざれば、城壁跡に最も近い道を辿ることで滿足せざるを得ず。又、本日は、先に Les Halles (レ・アール)に行きてあれば、其處より始めて、夜芝居を觀る心算なるがゆゑに、適當なとこで中斷せる豫定なり。
 リュクサンブール公園邊りにて中斷、公園内に入りてみれば、無料コンサート開かるゝ樣子なり。此は、Paris Quartier d'été (パリ・カルティエ・デ・テ 巴里夏祭り)の一環にて、今夕の出番は、エジプトから來たるヌビア(ナイル川流域)傳統音樂とテクノ・ミュージックの融合バンド、Ganoub (ガヌーブ)。その發生の 5 世紀に遡る古風な葦笛(?)、太鼓、ボンゴ、アコーデオン、ヴァイオリンその他の編成にて、コンサート始まるや、直ちに踊り出す女の子もあり、その後もノリノリの人現れ、大喝采裡に終了せり。
 リュクサンブール公園を斜めによぎり、リュセルネール座に向かひ、二本の芝居を觀ぬ。
 先づは、La Sirandane (ラ・スィランダーヌ) & Le Centre Théâtral du Havre (ル・サントル・テアトラル・デュ・アーヴル ル・アーヴル演劇センター)の Extension du domaine de la lutte (エクスタンスィオン・デュ・ドメーヌ・ド・ラ・リュット 鬪ひの場の擴大)(原作・Michel Houellebecq ミシェル・ウールベック/脚色・Guy Massuard ギィ・マスュアール & Jean-Pierre Guiner ジャン=ピエール・ギネ/演出・Philippe Guyomard フィリップ・ギヨマール)。ジャン=ピエール・ギネ自身の一人芝居なり。
 日々に疲れしシステム・エンジニア(informaticien アンフォルマティスィヤン)、職場でも戀愛でもツライ目續きにて、逐に神經科醫 (psy) にお世話になるも、上手く行かず。鬱状態のまゝ山登りに出掛け、そこで投身自殺の誘惑に驅られ……。
 役者も裝置もナカナカ良く、演技も大仰ならず、大層素敵な要素の揃ひたるに、臺詞説明の長きがゆゑか、寢不足のせゐか、途中ウトウトしてしまひぬ。ゴメンね。70 分。
 2 本目は、こちらも Martine Fontanille (マルティーヌ・フォンタニール)による一人芝居にて、La Compagnie Haute Tension (ラ・コンパニー・オット・タンスィオン 劇團ハイテンション) & Le Théâtre Par Le Bas (ル・テアトル・パル・ル・バ 劇團下から)提供、Contes érotiques arabes du XIVe siècle (コント・エロティーク・アラブ・デュ・カトルズィエム・スィエークル 十四世紀亞剌比亞好色譚(アラビアつやばなし))(演出・Jean-Luc Borg ジャン=リュック・ボルグ)。
水を呑む主人公 細き道を辿る主人公 語る主人公
1 本目の舞臺。このスチール棚の中より場面に合はせたる小道具(コップ、電話、アノラック etc.)次々と出現 パンチ・カーペットの周圍の電飾は、主人公の辿る「細い道」 2 本目の舞臺の上には裏地風の布敷き詰められたるが、女優さん、滑って轉びさうになってたりす
ゴロゴロせる主人公 客をいぢる女優 メトロ 4 番線、サン・ジェルマン・デ・プレ驛
夜になりて話を始むる前には、必ずゴロゴロす 「あなたの陰莖は××です」 7/19 に100 周年を迎へしメトロ。驛構内のお化粧直しも次々と行なはる。この春改裝なりしばかりの Saint-Germain des Prés (サン・ジェルマン・デ・プレ)驛のテーマは「文學」。廣告を排せる眞っ白の壁に活字投影され、壁のケースには文學書陳列さる(何故か、子豚の「ベイブ」の本もあり)
「鬪ひの場の擴大」のチラシ 「十四世紀亞剌比亞好色譚」のチラシ
一寸サイケな、「鬪ひの場の擴大」 チラシは地味な「十四世紀亞剌比亞好色譚」
 客入れから、舞臺上に、女優さん横たはり、ゴロゴロせり。ト、立ち上がりて、語るは、處女(をとめ)達と一夜を共にしては、朝になると彼女たちを殺してしまふ王樣 Shahryar (シャーリアール)のハナシ。即ち、『千夜一夜物語』なり。因みに、このハナシ、日本にては『アラビアン・ナイト』と英譯名にて知らるゝも、人口に膾炙(かいしゃ)せるは、18 世紀初のフランス人東洋考古學者 Antoine Galland (アントワーヌ・ガラン 1646-1715)の再話にて、アラビア語原典に無き「アリ・バヾ」「アラジン」抔も、彼が付け足しぬ。
 扨、かの語り部シェヘラザード (Shéhérazade シェエラザード)の登場して、王と一夜を共にせる段より、イキナリ vulve (ヴュルヴ 女性の外陰部)だの membre (マンブル 陰莖)だのゝ語にてセックスの樣を描寫。扨、性交後、殺されさうになりしシェヘラザード、モノガタリを始め、良い所にて鳥の鳴く SE 流れて、「丁度その時、朝になりたれば、シェヘラザード立ちて部屋を出づ」との決まり文句にて、一夜を結べり。
 商人の留守に間男に入りし男のハナシ、謎の美女と一夜を共にせる若者が、猛犬に變じたる美女に追はれるハナシ等々。毎囘性交の描寫あり、序でに體位の解説やら、小さい陰莖でお惱みの方に對する耳寄りな情報抔、夜を重ねるに連れ、どんどん碎けた内容と語り口調に成りゆき、徐々に觀客をいぢるやうになりぬ。例へば、眼を見ればその人の陰部の特徴が判るとて、客の眼を覗き込み、あなたの陰莖は白い鳩、とか云ひぬ。又、途中で小休止とて、袖よりフルーツと生姜の砂糖漬けの盛り合はせられし皿を持ちきたりて、觀客にサーヴィスす。此は「精を付ける食べ物」なり。更に、夜が明けて、ハナシの中斷さるゝ度に、男性客の方を物欲しさうなる顏にて見つめ、モヂモヂするなどの小ネタもあり。ある時は、最前列下手寄りの男性客の一人、彼女のスカートの中の見えそで見えぬを氣に掛け覗き込みたるに、それに氣付きたる彼女、「良いわよ、見て」とか云ひぬ。
 最後のハナシは、「シャーリアールてふ王樣がゐて、毎夜處女と契りては、翌日には彼女らを殺せり……」てふが如く、シェヘラザードがシェヘラザードのハナシを語る「入れ子式」になりて、幕。
 一風變はりたる喜劇。コンセプトと役者のみで勝負。で、勝った、てふところか。70 分。


2000/08/02
伸びる影 雙子仕樣乳母車 寢轉ぶカップル アトミック・クラブ店内
ルイィ公園。伸びる影 雙子仕樣の乳母車 寢轉ぶカップル アトミック・クラブ店内。古雜誌、古コミック、セル畫、ビデオ、フィギュア等々が所狹しと
アトミック・クラブ店内 アトミック・クラブ エトワール・ドール中庭 エトワール・ドールの空
日本物のみとは限らず。「X ファイル」のポスターも Rue Trousseau (トゥルソー[束(たば)]通り)なるオタク系專門店 Atomic Club Cour de l'Étoile d'Or (エトワール・ドール[金星]中庭)の入り口付近 エトワール・ドールの空
エトワール・ドールの廢屋 エトワール・ドールの入り口 横斷歩道の女の子 歩道の人々
エトワール・ドールの廢屋 Rue du Faubourd St Antoine (フォーブール・サン・タントワーヌ通り)に面せるエトワール・ドールの入り口 フォーブール・サン・タントワーヌ通りの横斷歩道 フォーブール・サン・タントワーヌ通りの工事中歩道
バスティーユ廣場前 バスティーユ廣場の移動屋臺 ブティックのショー・ウインドウ 舊シュリー館前
バスティーユ廣場前のカフェ バスティーユ廣場の移動屋臺 Rue Saint Antoine (サン・タントワーヌ通り)のブティックのショー・ウインドウ サン・タントワーヌ通り、舊シュリー館前
Miss Star Club 8 月號 Synopsis 7-8 月號 Les Inrockuptibles 8 月號 Canard 8/2 號
Miss Star Club 8 月號。今號もオマケあり。品は豹柄プチ・ノート シナリオ雜誌 Synopsis 7-8 月號。特集は「若者向けに書く」 Les Inrockuptibles (レ・ザンロキュプティーブル)8 月號。 incorruptible (アンコリュプティーブル 清廉潔白)と rock をかけたるか。特集は「若者」。京都の若者の記事あり 週刊風刺新聞『ル・カナール・アンシェネ』(鎖に繋がれし鴨)。因みに canard、18 世紀に「デマ」の意、轉じて 19 世紀には「赤新聞」の意味を持てり
 モンガレの雜誌屋さんにて雜誌・新聞購入→ルイィ公園→アトミック・クラブ→バスティーユと移動。
 水曜日なれば、Le Canard enchaîné 購ひてみるに、ティベリ市長の八方破れ攻撃の結果、シラク大統領が市長時代の行動が曝露されつゝあり。
 加へて、今號の『カナール』には、沖繩サミットに於ける森首相の例の失言ネタ載りたり。即ち、クリントン米大統領に對し、事前の「想定問答」にては "How are you ? "と問へば、"I'm fine, and you ? "と返され、"Me too."となるべきものを、イキナリ"Who are you ? "と云ってしまったてふヤツなり。クリントン、驚きつゝも、流石は歐米人、すかさず "I'm Hillary's husband." と返したるに、森曰く "Me too."。國辱級ならん。
 ところが、On se marre chez les glands de ce monde: (オン・ス・マル・シェ・レ・グラン・ド・ス・モンド この世のタハケども(坂口安吾風に書かば「鈍愚利」)には大笑ひさせらる)との書き出しにて『カナール』に載りたるは、雜誌 Le Point (ル・ポワン)からの轉載なるが、些かヴァージョンが異なりて、森がアメリカに行きてクリントンに "How are you ? " と問ひたるに、發音惡きがため "Who are you ? "と聞いたクリントン、これをエスプリと考へ、咄嗟に "I am Hillary Clinton." とエスプリで應酬せるに、英語判らぬ日本の首相は "Me too."と答へぬ、てふもの。
 「サミットに於けるフランス人達の間で大流行のジョーク(blague ブラーグ)」とあり、記事の見出しは Samouraï love you (大抵が語呂合はせの『カナール』の見出し、こゝは勿論「サムライ」の語尾と "I " を、強引に掛けたり)。流石フランス人、不條理の方を好めるか?






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