宇仁田ゆみ『うさぎドロップ』1-8(祥伝社FC)

By 黒猫亭主人, 2011/04/04

うさぎドロップ (1) (FC (380))うさぎドロップ 8 (Feelコミックス)

東浩紀はベーシック・インカム論者として知られるが、その東が原案を書いたアニメが、1月から放映されてゐる「フラクタル」。ハルヒの山寛(ヤマカン)こと山本寛(ゆたか)監督が、これがコケたら引退も辞さずてふ意気込みの深夜アニメである。世界観の設定として、全世界の人間が、基礎所得を受けとって暮らしてゐることになってをり、これはベーシック・インカムの実現てふことであらう。たゞ、この世界を統治してゐるフラクタル・システムは、発明以来一千年、綻びが出はじめてゐるてふのが、モノガタリの出だしだ。

このフラクタルは、フジテレビのノイタミナ noitamina ―― amimation の逆読み――枠の作品だが、この7月からノイタミナで放映されるアニメのひとつであり、松山ケンイチと、今をときめく名幼女優・芦田愛菜による実写映画も8月公開予定なのが、「うさぎドロップ」。原作の漫画は、『FEEL YOUNG』で連載中である。

先月の芝居のホンの参考てふ口実で全巻大人買ひ&一気読みしたが、いや、まゐりました。なににか? ヒロインのりんちゃんにである。以下ネタバレあり。
主人公の大吉は、30歳独身のしがないサラリーマンだが、ある日、祖父のお葬式で無口な6歳の女の子にであふ。聞くところによると、祖父が若い愛人に生ませたこども――つまり、大吉にとっては叔母さん――らしい。しかし、その母親は顔を出さず、大吉の親族間では、女の子のおしつけあひが展開されてゐた。祖父似らしいじぶんについてあるき、祖父の亡骸に対面したときの女の子の泣き顔をみた大吉は、男気もあって、彼女――りんを引きとることにする。そしてはじまる、にはか父親の日々。会社では残業のない部署に異動を申し出、保育園では母子家庭の男の子コウキ――りんの母親不在がをかしいてふ周囲のこどもたちに、啖呵を切ってくれた――と、そのコウキの母親――たいさう別嬪さん――としりあってドキドキしたり、りんの実の母親と会ったり、小学校ではパパ友ができたりしながら、父親として――じつは人間として。なにしろ、りんは「おとうさん」ではなく「ダイキチ」と彼を呼ぶのだ――の成長をとげてゆく。これはつまり、大吉の成長譚であった――第4巻までは。

第5巻では、いっきょに10年がすぎ、りんは16歳。買物したりご飯つくったりしつゝも、進学校での成績もよい女子高生となった。大吉は40歳独身のまゝ。コウキはシュッとした男子高校生に育ち、同級生には、大吉の従姉である春子の娘・麗奈もゐる。そんななか、コウキはりんのことが好きで、りんも憎からずおもってゐたが、コウキは中学のときの先輩とつきあふことになってしまひ、りんのキモチも冷めてしまふ。ト、どうじに、たがひに惹かれあってゐた大吉とコウキのママも、そのキモチを封印する。やがて、りんは、実の母親――漫画家・西園寺まろん――の存在をしり、あひにいくことで、じぶんが「棄てられた」理由をしったりもする。つまり、後半は、りんの成長譚なのである。

そんななかで、りんは、あらたな「恋」を感じて愕然とする。なんと、相手が大吉だったからだ。もちろん、りんは、「40歳の三親等のお父さんがわりだよ!!」(第8巻: 60)、ト、じぶんに突っ込んだり、大吉とじぶんの関係を「傍系三親等だから、結婚はできない」とかんがへたりもする。このまゝ、大吉との日常がおくれゝばよいとおもってゐたが、なにげないひとことから、コウキがりんのキモチを察知、ト、こゝまでが、現在単行本化されてゐるところ。

この先は、雑誌連載によるが、けっきょく、そのきもちは大吉にしられるところとなり、娘としか見てゐなかった大吉は驚愕、りんは家をとびだし、実の母親のところに転がり込むが……。

じつはふたりの間に血縁関係がないのではないかてふ憶測は、ネット界でも語られてゐたが、その予想のとほり、大吉の祖父は、当時、お手伝ひさんにきてゐた女性が、妊娠して困ってゐたことをしり、みづからの籍に入れることで、ふたりを守らうとしてゐたのであった。そして、大吉が養子の提案をしたときも、6歳のりんが、苗字の変更を理由に、それを断はるてふ細工もなされてをり、この路線は、当初から決まってゐたやうでもある。

「このマンガがすごい! 2011」オンナ篇で、ワン・ツー・フニッシュをきめたヤマシタトモコは、第2位になった『ドントクライ、ガール(ハート)』(リブレ出版)――なんとCDドラマ化されるやうだ。ちなみに、第1位は『HER』(祥伝社FC)――のあとがきで、「孤独な少女とその世話をなかば義務なかば趣味に行なう年増男、という組み合わせがこの世の何よりも、三度の飯と同じくらい好き」と書いてゐる――表題作は、全裸ライフの31歳微変態男性のもとに、17歳処女女子高生が同居を余儀なくされるハナシ――が、なにを隠さう、そんなシチュエーション、小生も大好きなのだ。しかも、高校生あたりで、すでに「父子家庭」モノが好みだったので――当時は、赤瀬川源平が尾辻克彦名義で芥川賞を受賞した『肌ざわり』を代表とする「胡桃子モノ」が大好きだった――、我ながら筋金入りと感じざるを得ない。

現在発売中の『FEEL YOUNG』では、りんのまっすぐな告白に、大吉が2年待ってくれといふ。そして、もうぢき発売の5月号で、この疑似父子のモノガタリは最終回をむかへる。うーむ、どうなるのかしらん?

なほ、『FEEL YOUNG』4月号から連載のはじまったヤマシタトモコの「ひばりの朝」も、従姉の娘――14歳の女子中学生――の面倒をみはじめることになった31歳男子――IT系自宅勤務てふてんが、「ドントクライ、ガール(ハート)」とおんなじ――のハナシであった。成分補給?

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3 Comments

  1. kotomi より:

    そこまで話が進んでるとはしらなかった・・・
    まだまだりんちゃんコドモだと・・・是非今度拝読させてください!

  2. 黒猫亭主人 より:

    あいよ。こんど持ってくるわ。

  3. 黒猫亭主人 より:

    先月号で、2年――つまり卒業までまってくれとこたへたダイキチ。今月号では、あってふ間に2年がすぎ、りんたちの卒業式の日。りんと訣別するコウキ――りんを守ってゐたが、ぜんぜんモテなかったらしい――は、県外の大学へ。麗奈たちとりんは地元の大学へ。そして、帰宅して、ダイキチにとびつくりん。躊躇ひつゝ、りんの求めをことはることなぞさいしょから不可能だったてふダイキチ。10年間「命がけ」で育てゝきたダイキチにとって、りんはかけがへのない存在にはちがひないのだ。さうして、りんは、ダイキチは、いっしょに子育てをしてくれるし、じぶんはダイキチのこどもを産んで、幸せなこどもに育てるのだてふ。じぶんがさういふこどもだったやうに。ラストは、それを聞いたダイキチを、あ、ダイキチ泣いてるとからかふりん、汗だ汗とこたへるダイキチで、シメ。
    だが、来月号は特集で、再来月号には番外篇が掲載されるさうな。単行本は、アニメにあはせてか?
    ところで、名古屋出身の宇仁田ゆみは、デビュー時にすでに結婚がきまってをり、現在は、三重県で、夫こどもとくらしてゐるらしい。てふことは、舞台のイメージは愛知県・三重県なのかしらん?