市川 春子『虫と歌』(講談社 アフタヌーンKC)

By 黒猫亭主人, 2010/01/01

虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC) いちぶでは大変な反響の市川春子。つひに単行本化。2006年の表題作「虫と歌」から、2007年「星の恋人」、2008年「ヴァイオライト」、さうして2009年12月の「日下兄妹」までの4作を収める。じつに年1本の寡作であった。評判にたがはぬ繊細な画風と作風――わかるひとにはわかる――は、ことごとく、人ならざるものの人化するハナシを描く。

巻頭作「星の恋人」は、オワラヒたっぷりの植物人間のハナシ、とみせて、愛のカタチを描く。男子中学生サツキは、母親の急な旅行で、叔父の家に居候することになるが、そこにゐたをんなのこツツジは、かつて事故で切断した彼の指が成長したものであった。そんな彼女に、サツキは「兄」を越えた感情をいだくが……。

最後に置かれた表題作は、昆虫をベースに人間――人型の昆虫なわけだが――を生成する実験をおこなってゐる晃とその弟うた妹ハナたちのもとへ、人型カミキリムシがあらはれるハナシ。カミキリは晃を襲ふも、シロウとなづけられ、兄弟たちと暮らすことになり……。結末は大層にがい。

最新作は、肩を壊した星好きの高校球児のハナシ。退部届を出した日下雪輝は、家の古道具屋の倉庫で、古箪笥の取っ手の部品がはじけとび、かってに動き出すのを目撃する。その部品はしだいにおほきくなり、変形し、やがてちいさなをんなのこの姿になり、つひに「陽向(ひな)」――雪輝にとって、おそらくは幼い頃に母とともに亡くした妹の名であった――となづけられまでする……。

「言葉をなくしてしまう 私のこと忘れても 永遠に お兄ちゃんのこと 好きよ」 (p.153)

泣けます。

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