月刊『コーラス』で、ひとりの女性の「脳内会議」――メンバーは5名の老若男女で、合議制で行動を規定してゐる。なぜか議長は男子だ――を描く「脳内ポイズンベリー」の連載を開始した水城せとなだが、こちらはいづれも一昨年から連載中の作品たち。
「失恋ショコラティエ」は、高校入学時に魅了された先輩のサエコさん――そんな美人てふわけでもないらしい――と、漸くつきあったものゝ、じつは二股かけられてゐたことにショックを受け、発作的に渡仏、有名菓子店 L’Atelier de Bonheur [ラトリエ・ド・ボヌール]――「幸福工房」の意。作中では「ボネール」と書かれてゐる――に押しかけ弟子入りし、5年後には、有望な若手 chocolatier として、日本店をまかされ帰国した小動爽太(こゆるぎそうた)のハナシ。サエコさんへの執着甚だしい彼は、実家の菓子店を改装して、ショコラティエ「Choco la vie」を開店準備中、サエコさんの来店に感激するも、じつは彼女は、結婚式の披露宴に出す菓子類の依頼のためであった。
人妻となったサエコさんをあきらめきれず、不倫上等とまでいひはなつ爽太くんには、女子のみなさんはドン引きなのであらうか、それともアリなのかしらん? 薫子さんが気の毒としかいひやうがない。
フランス語原文による会話がたくさん出てくるのだが、ちゃんと監修をうけてるやうで、完璧。ただ、第2話の冒頭に出てくる “Ça faisait longtemps que ne s’était pas revu.”(久しぶりにお会いできてすごく嬉しかったです)てふ文だけは、que と ne のあひだに主語となるべき l’on がぬけてゐる。
「黒薔薇アリス」は、長い時を生きる吸血鬼――だと『ポーの一族』だが――に非ず吸血「樹」たちのハナシ。1908年のウイーンで馬車に轢かれた青年ディミトリはヴァンパイアとなってしまふ。自暴自棄になった彼は、「繁殖すれば死ぬ」てふ知識を得て、幼いころから愛してゐた16歳のアニエスカを陵辱しようとするが、間一髪、彼女は自殺してしまひ、ディミトリの手だてにもかゝはらず、魂を缺いた生ける屍と化してしまふ。そして100年語の渋谷に屋敷をかまへてゐたディミトリ――日本人の養子となってゐて、苗字は「和泉小路」!――は、ある策を弄して、28歳の高校教師・梓の魂をアニエスカの躰に入れる。蘇った彼女はあらたな名を欲し、「アリス」と名づけられ、4人の吸血樹たちのあひだから「繁殖」相手を決められる女王となった。しかし、最有力候補だったレオが消え……。
第2巻の巻末で「お人形みたいなロリ少女をヒロインにした漫画」を描いてみたかったと記してゐる作者さうだが、「心は28歳だけどね!」「体は116歳だけどね!」てふセルフ・ツッコミがはひってゐる。残念!
失恋ショコラティエのお話の内容、少し間違ってますよ。
>サエコさんへの執着甚だしい彼は、実家の菓子店を改装して、ショコラティエ「Choco la vie」を開店、サエコさんの来店に感激するも、じつは彼女は、結婚式の披露宴に出す菓子類の依頼のためであった。
↑この部分が違います。サエコさんが来店したのは、前の勤務先です。
開業したのは、その後ですよ。
>おせっかいさま
いやいや、ご指摘ありがたうございます。修正しました。m(_ _)m