業田 良家『ロボット小雪――新・自虐の詩――』(竹書房)

By 黒猫亭主人, 2010/01/31

新・自虐の詩 ロボット小雪『まんがくらぶ』2006年12月(2007年1月号)から連載された4コマ――ときに5コマもあるが――の単行本。連載時のタイトルは「新・自虐の詩」であり、これは、当時『自虐の詩』の映画化が決定したことと関係ありさうだが、この作品の内容は、幸の薄い幸江の生涯に、親友・熊本さんの人生がからむことで名作と化した『自虐の詩』とはまったく関係がない。おなじなのは、たゞの4コマ漫画が、途中からドラマチックな大河巨篇化する点だ。

近未来、ロボットが普及した世界。拓郎の家では、ネット新聞記者の父親も、民間企業のロボット・デザイナーの母親も、それぞれ愛人兼用のロボットを所有してゐる。拓郎自身も、母親が設計した小雪といふロボットを彼女として所有してゐるが、旧式であるために、高校の同級生・広瀬くんがレンタルしてゐる最新型ヒューマノイド亜紀ちゃんと比較して、大層がっかりしてゐる。だが、ドジな小雪は、さまざまな経験をとほして成長し、つひには「心」を持つにいたる。

一方、株価の大暴落で、広瀬くんの父親が経営してゐたIT広告会社は倒産し、亜紀ちゃんも解約され、一家は夜逃げ。その広瀬一家が流れていった先は、煤煙で汚れた空と犯罪のにほひ立ちこめる「向かう岸の街」であった。それを知った小雪は、単身、その街に乗り込んで……。
拓郎も広瀬くんちも裕福な家のボンボンてふ設定は、前半こそ反発をくらふかもしれないが、じつは「向かう岸の街」を描くための伏線であった。

憂国漫画『世直し源さん』と形而上漫画『ゴーダ哲学堂』の作者ならではの怪作であらう。ラストにあらはれる、拓郎の母親の「美しい心をもったロボットがゐれば人間はいらなくなる」てふ苦い独白と、「自我」に目覚め行動する亜紀ちゃんの姿が、作品にさらなる余韻をあたへてゐる。

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