学籍削除

By 黒猫亭主人, 2010/01/22

芝居関係者はよく死ぬ、などと書くと不謹慎だが、この20年間で同世代の友人、知人が10名ちかく亡くなってゐる。いづれも病死か事故死で、所謂「天寿を全うした」とはいひがたい。ひとは必ず死ぬものではあるが、やはり若くしてひとが亡くなるといふことには、胸のふたがるおもひがする。

けふは、月に一度の教授会の日だった。会場となってゐる大会議室におもむき、机上にならべられたぶあつい資料をながめる。ふと、差し替へ用に1枚ペラで刷られた資料が眼にはひる。「学籍削除」。学生が亡くなったのだ。さうして、そこに書かれた名前を、ぼくはよくしってゐる。

ちょくせつ教へたことはない。出あったのは、教育促進支援機構主催ではじまった2007年4月の新歓キャンプ。ぼくは1班の班長をつとめ、彼女は6班をひきゐてゐた。スタッフのおほくが院生と新3回生のなか、たゞひとり新2回生で参加してゐたのが彼女だった。

それをきっかけに、その年の学祭の支援機構の屋台も手伝ってくれたし、翌年のオープンキャンパスでは、学内ツアーのスタッフとしても参加してくれた。支援機構が作成を担当した、文学部案内の表紙にも登場してくれてゐる。見た目はおとなしさうだが、じつは積極的な子であった。

やせぎすの彼女であったが、昨年末に入院してゐたことはしらなかった。4回生となってゐた彼女は、許可を得てもちこんだパソコンで、病床でも卒論を書きつゞけ、あとは目次をのこすのみだったといふ。

ちゃうどクリスマスの日、彼女は天に召された。

今年の1月5日なって、ご両親が完成させた卒論をもってこられたらしい。所属の教室では、彼女の卒論も判定会議にかけるさうだ。もちろん、彼女の学籍はなくなってしまったので、正規に卒業できるわけではない。だが、文学部としては記念の卒業証書を出したいといふ報告が教務委員長からなされ、それにたいする学部長の補足説明は、涙をこらへるためにとぎれた。

文学部案内の表紙の企画は、あなたの《夢》を書いてくださいといふものだった。彼女が掲げてゐるスケッチ・ブックには「教育にたずさわる仕事」とある。教育、つまりひとと関はることがすきだったのだらう。

教育支援チームの活動に参加するなかで、すこしは《夢》がかなった、などとはけっしていふまい。輪廻転生をしてゞも、《夢》はかならずかなへるべきものであり、かなふはずのものなのだ。

ジュンちゃんへ。

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16 Comments

  1. マコト より:

    「そういうことで学籍削除になるんだ・・・」とはじめはぼーっと眺めていました。
    どこか客観的な気分で。
    でも3段目でショックを受けました。僕もよく知ってる子だ、と。

    今、彼女との思い出を思い出しながら書いていますが、振り返るとその数がなんて少なかったんだと後悔の念でいっぱいです。
    僕の記憶の中の彼女は、色白で、いつも笑っていた気がします。そしてとっても積極的な子でしたね。
    久しく会っていなかったのでどうしているのか、ちょっと気になってはいたんですが・・・。いつも失ってから気づく、間抜けなものです。

    まだ頭の中が上手く纏まってないんですが、輝いていた彼女と時間を共有できたことを僕は誇りに思います。
    ご冥福をお祈りして。

  2. 黒猫亭主人 より:

    教授会中にPCのなかの写真をさぐったんだが、キャンプ場へ向かふバスのなかで、となりにゐるのはキミやった。学内ツアーで、彼女は1回きりの参加だったのだが、その回にもキミがゐる。そして、うへの学祭の写真も、もちろん、彼女のむかうにゐるのはキミだ。
    さういふわけで、まっさきにキミは知ってるんやろかてふことが気になったよ。

  3. のんち より:

    4段目を読んだ瞬間に彼女の顔がバッと浮かんで、信じられない思いでいっぱいでした。

    そうだったんですね…。
    ツアーの時に、こちらがあわあわしてたときに、笑顔で高校生に案内とかしててくれて、なんてテキパキできる先輩なんだろうと思いました。
    そのあとも、ちょこっと部活で一緒になったりしたんですけど、最近お会いしないなぁと思ってたら…。

    ご冥福をお祈りします。

  4. かじ より:

    最初わからなかったですが、よく読んでみると、一緒に笑って、一緒に色んな事をした僕の良く知っている子ですね・・・。

    あまり知り合いのいない学年ですけど、彼女とは良く色々話をしましたね。
    彩Dreamも快く引き受けてくれました。
    長く会っていなかった理由が、今わかりました。

    正直すごくショックです。
    それ以外の言葉が出てこないです。

    ご冥福をお祈りします。

  5. 黒猫亭主人 より:

    >のんち
    さうか、サークルもいっしょやったんや。
    生協でもいろいろやってたみたいだし、すすんで色々やるタイプの子やったね――支援機構にかかはるの学生さんには、そのタイプはおほいけど(^ー^)――。

    >かじ
    あの学年のことは、だいたい彼女がやってくれたよな。
    ぼくもショックすぎて、ブログ書くことでしか、ざわつく心をなだめられなかったよ。

  6. kotomi より:

    数回お話をしたことがあります。(お客様として)
    表紙にもなっていたのを拝見しました。
    体が弱いということは聞いてましたが、まさか。。。
    ・・・・・・。残念です。

  7. 黒猫亭主人 より:

    >kotomi はん
    さうでしたか。
    いや、しかし、やっぱせつないわあ。

  8. マサコ より:

    この仕事をしていると、学籍削除はいくつかのパターンが思い浮かぶので、ついつい仕事モードで読んでしまっていました。
    ところが写真を見て、あっ、と思いました。
    まさか。でも、私の知っている、彼女。 …どうして、ということしか、浮かびません。

    私が院生だった頃の話です。
    うちのコースには珍しく、よく学部生室に来ていました。
    一生懸命に授業の課題に取り組んでいるのを見て、助言(えらそうですが)をしたことが何度かありました。そのたびに、こちらが嬉しくなりました。

    まだ、ひょっこりと、声をかけてくれそうな気がするのです。
    いつものように、にこにこと手を振って。
    もっと話をできたのに、と、悔やむばかりです。

  9. 黒猫亭主人 より:

    >マサコ
    ほんたうに、ほんたうに、
    マヂメでガンバリ屋さんな子やったね。

  10. Daiki より:

    涙が止まりません。しばらく泣くことしかできませんでした。僕の支援機構の初めての後輩で、今、1回目のキャンプの夜の時間が頭の中によみがえってます。何事にも積極的で、そしてやさしくて、ほんまにええやつで、、、。僕のパソコンにも一緒にすごした彼女の写真がいくつかあります。今はそれを見て、冥福を祈りたいと思います。

  11. 黒猫亭主人 より:

    >Daiki
    「命短し戀ひせよをとめ」と正月に書いたとき、彼女はもう去ってゐた。死にいたる人生のまへで、ぼくらは無力だ。でも、だからこそ、無為に過ごすわけにゆかぬのではないか?

    彼女の22年の人生てふのは、あきらかに平均よりみじかいけれど、それでも《意味》のあったものとかんがへるにはどうすればよいのか? そして彼女の《夢》を「かなはなかった夢」にせぬためにはどうすればよいのか?

    問ひは尽きない。

  12. あさこ より:

    タイムラグがありますが、あまりにショックだったのでコメントします。

    キャンプの時しか一緒に過ごしていないですが、まだ二回生だったのに、一生懸命新入生をリードしてカレーを作っていたのが印象的でした。

    夜のスタッフ部屋で、「小学校の先生になりたい」といきいき話してくれたのを鮮明に覚えています。

    ほんの少ししか関わりのなかった私でさえこんなにやるせない気持ちになるのに、親御さんや本人はどんなにやるせなかっただろうと思います…

    ご冥福をお祈りします。

  13. 黒猫亭主人 より:

    >あさこ
    さうか、さいしょは小学校の先生やったんやね。

    彼女の班員たちは、彼女のことを憶えてるんやろか。

    1回生のフランス語の最後の授業のとき、毎年々々、残りの学生生活もあっといふ間やてふハナシをするのだけれど、今年は、彼女のハナシをしたい誘惑に駆られたよ。

  14. にゅう@国文コース より:

    はじめまして。
    いまでも、信じられません。
    いつも、笑顔で、いつも自分よりも他人のことを考えて、
    いつも、いつも素敵な友人でした。

    中途半端に生きている自分が恥ずかしくなりました。
    あの友人の分まで、いろんなものをみて、
    いろんな人と出会いたいと思います。

    メールがかえってこない、携帯電話は、
    悲しい無機質な物体です。

  15. 黒猫亭主人 より:

    >にゅうさん

    Carpe diem [カルペ・ディエム](けふを摘め=今を生きよ)とは、ローマの詩人ホラティウスのオードの一節。quam minimum credula postero [クアム・ミニムム・クレドゥラ・ポステロ](できるかぎりあすを信じないで)と続きます。
    兎に角、今を懸命に生きねばなりませんね。

  16. にゅう より:

    >>主人様
    できるかぎり明日を信じないで ですか。
    突き放したようで、実際そうなんですね。5秒後何が起きるかすらわからないし。期待や信頼より今が大切ですね。
    歩く足があるので、しっかり歩きます。ありがとうございます。