巴里便り

L'Ile Saint-Louis 篇

(2000/06/01-03)


2000/06/01
バス停の貼り紙 結婚式用の特別バス
バス停の貼り紙 結婚式用の特別バス。白いリボンで飾られてたりす
 本日は木曜にてV君のとこへ行く日なり。フランス語にて些かなる mémoire を書き、彼に添削してもらはんとて昨日よりつらつら考ふ。
 テレビでは、今週頭より、F3とF2がリレーで Roland Garos (ロラン・ギャロス)、即ちテニスの全佛オープンを中繼せり。この「ロラン・ギャロス」、人によりては、語末の s が聞こえず、「ギャロ」と思ひ込みたるにやあらんと疑はしき場合あり。ロラン・ギャロスをBGMに呻吟せるも、結句1ページ分しか書けず。
 さて、V君宅は18區のサクレ・クールの直ぐ東鄰なり。メトロは4番線の Chateau rouge (シャトー・ルージュ 赤い城)が最寄りなれど、闇の中を直行せるより、風景眺めつゝ曲行せる方が好ましければ、最近は85番線のバスにてゆけり。我が家最寄りのバス停は、メトロ4番線の場合と同じくシテなり(正確には Cité Palais de Justice シテ・裁判所前)。時間的餘裕を見て、早めにバス停に行きて待つ。されど、他の路線は次々と來れど、85は一向に現はれず。何やら、路線のあちこちが工事中ゆゑ、運行が亂れるとの貼り紙あれど、にしても來ぬ。餘りに來ざれば、バスを諦め、メトロにて行くことにせり。
フートリエ通り 親娘連れ アンドレ・デル・サルト通り 觀光列車自動車
Rue Feutrier (フートリエ通り) 親娘連れ フランス語では「アンドレ・デル・サルト」。『吾輩は猫である』で、迷亭がこの畫家の名前を持ち出して苦沙彌先生を煙に巻く箇所あり 奧はサクレ・クール。妙な恰好の觀光列車自動車が走りたり
 V君宅に行くまでに、毎週水曜發賣の Canard enchaîné (カナール・アンシェネ)を購入せんと思ひ、同じ通りの雜誌屋さんに立ち寄ることゝす。こは8ページしかないにも拘らず、8FFもせる(ル・モンドは7FF50)有名な風刺新聞なり。見出しには Jeu de mots (ジュー・ド・モ 語呂合はせ)滿載にて、簡單には讀み解けず。この新聞がタイトルは「鎖に繋がれし家鴨」なるが、canard とは、日本の「赤新聞」に些か似て、新聞の蔑稱なり。V君によれば、19世紀以前の言葉なりと云ふ。然り乍ら、現在は、キオスクにて「カナール下さい」と云へば、直ちにこの新聞を指せり。
古風な螺旋階段 中庭 リムスキー
V君宅なる古風な螺旋階段 中庭 V君の愛猫 Rimskii (リムスキー)
 16世紀初のイタリアの畫家、アンドレア・デル・サルトを名に持つV君宅の通りにて、件(くだん)の雜誌屋さんに寄りてみれば、本日半ドンの貼り紙あり。若(も)しやと思ひて暦を取り出してみるに、果たせるかな、Ascension (アサンスィオン キリスト昇天祭)なりき。こは復活祭後40日目・木曜日と定められしカトリックの祭日にて、フランスの祝日の一つなり。移動祭日なれば、毎年確認せずばならず、すっかり失念せり。成る程、お休みの店舗の多きわけなり。
ロシュシュアール クレーン・キャッチャー トリアノン ガソリン・スタンド
ロシュシュアール クレーン・キャッチャー。一囘1フラン トリアノン ガソリン・スタンド
風俗店の竝ぶピガール パリ市のデジタル掲示板 ピガール廣場 ホームレスのおっちゃん
風俗店の竝ぶピガール パリ市のデジタル掲示板。大氣情報、今日の質は10段階評價で3 ピガール廣場。LE THEATRE の下には Peep show のネオンあり。覗き部屋なり バス停のベンチで眠る SDF (エス・デー・エフ Sans domicile fixe サン・ドミスィル・フィクス 住所不定=ホームレス)のおっちゃん
 V君の授業(?)の終はりて外へ出れば、午後9時前にも拘らず、初夏の陽射しは尚カンカンと照りぬ。rue de Clignancourt (クリニャンクール通り)を南下、boulevard de Rochechouart (ロシュシュアール大通り)に曲がりて、place de Pigalle (ピガール廣場)まで歩けり。こゝは風俗店の多き場所にて、晝間から聲を掛けられしことあり(その折りは、「盆栽ショー」てふのをやってるから這入らんか、てふ誘ひなりき。如何なショーなるか、些か興味は湧けど、入らず)。こゝはサン・ルイのど眞ん中を通る67番線のバスの終點なれば、それに乘りて歸らんとの目論見なりしかど、この度も待てど暮らせど現はれず。逐に待ちかねてメトロにて戻ることゝはなりぬ。
迷ひ犬の貼り紙 セーヌの殘照
「急告。迷ひ犬。レピュビュリック廣場にて。名前はマナ。謝禮多額」 ポン・マリィからセーヌの殘照。夜の10時半


2000/06/02
 本日は久方振りに快晴、且つ、氣温上昇せり。豫報では最高氣温28度ならんと云へり。先日來懸案のデジタル・ビデオ用クリーニング・カセットを求めて、パリの外のショッピング・センター「ベルスィー2」へ行く。こゝへはバス24番線にて一本なれば、最寄りのモベール・ミチュアリテから乘りて行けり。
 諸々買ひて、再び24番線に乘り、ベルスィー公園にて降りる。公園裡の薔薇を愛でんとの計畫なり。
 薔薇を愛でし後、芝生にて讀書す。最初日向にて坐わり込めど、刻々と汗の湧き出づるによりて、日陰へと退散。夕刻になりたれば、一旦歸宅の後、芝居を觀に行かんとす。
サン・ルイ・アン・リールの花 ケ・ド・ブルボンの舊家 ベルスィー公園の薔薇園 サッカーに興ずる男の子たち
皆が花を飾る サン・ルイ、ブルボン河岸の舊家。窓ガラスが板ガラスに非ず ベルスィー公園の薔薇園 サッカーに興ずる男の子たち
メリーゴーランド ベンチ 植物園での野外コンサート キック・ポード練習中
ベルスィー公園のメリーゴーランド ベンチ 植物園での野外コンサート。逐に觀る能はず キック・ボード練習中。結構見かける
バスティーユ・ローラー 新オペラ座の前 リヨン通り横の建物 バスティーユ・ボーダー
バスティーユ・ローラー。フランスの澁谷なれば、ローラー率多し 新オペラ座の前はいつも賑はふ Rue de Lyon (リヨン通り)横の建物 バスティーユ・ボーダー。必ずボードの練習する若者あり
 三度24番線に乘りてみれば、そはオステルリッツ驛までしか行かぬヤツなりて、植物園の入り口近くにて降りることゝなりぬ。序でなれば、植物園を散歩、ジュシュー(パリ6&7大學)を經由して歩いて歸らんとせど、餘りの暑さに、途中で日和り、ジュシューよりメトロに乘りて戻りぬ。
 さて、シャワーを浴びて汗を流せる後、芝居を觀に出掛く。『パリスコープ』によれば、金曜日の晩しかやらぬやうなり。些か時間の切迫せば、メトロに乘りてバスティーユまで行き、そこからロケット通りを歩きて、例のマンダラケのあるケレール通りに到りぬ。
 當該の小屋の前に來てみれば、本日休演の貼り紙が。ツイてなきなり。どっと汗も噴き出しぬ。仕方なければ、歩いてサン・ポールまで戻り、大手チェーン・スーパーの Monoprix (モノプリ)が營業時間延長で9時までやってをりたれば、食料品を買ひ込みて歸宅せり。


2000/06/03
古びた門扉 カンパーニュ・ド・パリに到る階段 階段の上から 「巴里の田園」
メトロのポルト・ド・バニョレの直ぐ北側 「巴里の田園」に到る階段 階段の上から 「巴里の田園」
薔薇を咲かせた家も多し 赤煉瓦屋根 キャピテーヌ・フェルベ通りの家 ダルティ前の雜草
薔薇を咲かせた家も多し 赤煉瓦屋根 横を通る rue du Capitaine Ferber (キャピテーヌ・フェルベ通り)の家 ダルティ前の雜草
 些か曇りがちの天氣なれど、再びクリーニング・カセットを求めて出掛く。本日の目標は、例のH君の泊まりてありしペリフの外なるガリエニの Darty (ダルティ)なり。こは家電量販店にて、テレビの天氣豫報のスポンサーとなりてあれば、その名は頻繁に眼にす。
 バス76番線に乘り込みて、不圖思ふに、前より氣になりてある、Porte de Bagnolet (ポルト・ド・バニョレ)の La Campagne à Paris (ラ・カンパーニュ・ア・パリ 巴里の田園)てふ住宅街を訪(おとな)ふ。こゝは、19世紀まで石膏の採掘場なりけるが、例のオスマン計畫によりて埋め立てられたる土地にて、安價に住宅を提供する目的の許結成されし「巴里の田園協會」の成果なり。1906年に第一號の住宅の建ちてより20年で完成。現在89の家が軒を連ぬてへり。
 さて、ガリエニに向かはんとすれど、こゝからはモントルイユ の市の近きことを思ひ出し、又も涼しき日々が戻りたる際に上着の必要ならんと考へたれば、モントルイユ の市に上着を探しにゆくことに豫定變更す。
兎肉 パック壽司 ピカ抱へし小父さん カートの中のピカ
兎を喰ふのはフランスのみか? 文字通り皮を剥がれた兎。勿論目玉付 オーシャンにはパック壽司もあり。1パック80FFもする高級料理 ピカチュウ縫ひぐるみ(大)、あっと云ふ間に賣り切れ。其處此處にピカを抱へた人が 子供連れは當然ピカを購入
プランシェット公園入り口 公園内の彫像 薔薇 薔薇越しの彫像
プランシェット公園入り口 公園内には彫像もあり 薔薇 薔薇越しの彫像
 モントルイユ にて上着を購(あがな)ひ(序でにネクタイも)、市の竝びに沿ひて北上せるうちに、本來の目的地ガリエニに到着す。ダルティに行きてみれば、こゝにもなし。驛前ショッピング・センターに、例の巨大スーパー Auchan (オーシャン)(オーシャン自身は supermarché (スュペルマルシェ)と云はず、Hypermarché (イペルマルシェ)と稱せり)のありせば、些かの買ひモノをす。
 さて、嘗て薔薇の季節にも一度來ようと思ひしパリの鄰のルヴァロワ・ペレなるプランシェット公園に行く。こゝはメトロ3番線の終點の近所なれば、3番線のもう一方の終點たるガリエニからは行き易きことこの上なし。
 着きてみれば、豫想通り薔薇の澤山植ゑられてあれば、木陰のベンチに腰を下ろし、薔薇を愛づ。
オーシャンのピカぬひ看板
オーシャンの看板發見。ピカ賣り切れ續出か?
 軈て雲行きの怪しくなりて雨となる。小生がベンチは樹に守られて濡れず。
 暫しモバイル・コンピュータにて作業の後、公園の脇を通る53番線のバスにてサン・ラザール驛前に戻り、近所のフナックを探索。その後、12番線にてモンマルトル脇の Lamarck-Caulaincourt (ラマルク・コランクール)に行く。Théâtre du Funambule (フュナンビュール座)に芝居を觀に行くためなり。
 この小屋はレストランの變身せるものにて、座席も常設に非ず折り疊み椅子なるが、舞臺は常設のやうなり。出し物は Cuisine et dépendances (キュイズィーヌ・エ・デパンダンス 臺所と依存關係)てふコメディにて、役者として有名な劇作家 Jean-Pierre Bacri (ジャン=ピエル・バクリ)と Agnès Jaoui (アニェス・ジャウイ)の臺本(二人はカップルの由。最近の佛映畫の中のヒット作 Les Goût des autres レ・グー・デ・ゾートル 「他人の味」の脚本も擔當。尚、監督はジャウイ)、演出(出演もせり)は Patrick Blandin (パトリック・ブランダン)なり。新聞やテレビで有名な人間を晩餐に招きたる夫と妻、その家に二タ月前から居候してゐる中年男、妻の弟、有名人の妻の五人芝居にて、その家のキッチンが舞臺。電氣系統に故障でも生ぜしか、途中でパーライトが消えたり、地明かりが半分になったり、又、明かりのキッカケを間違ったり、音響を入れトチったりせるも、役者も上手く、面白い作品なりき。
ラマルク・コランクール驛 フィアット500 ソール通りの階段 フュナンビュール座入り口
メトロのラマルク・コランクール驛 ルパンIII世の愛車、Fiat 500(チンクェチント) Rue des Saules (ソール[柳]通り)。フュナンビュール座はこの先 フュナンビュール座入り口。屋根の上に植木鉢
彼らは Compagnie Crescendo てふグループらしく、web page に役者(作者のも)紹介あり。年配のお客さんも多かりしが、些細なネタで大笑ひせるのだけは勘辧願ひたし。
 21時開演にて、終演は22時40分。これを月から土まで毎晩繰り返せるわけにて、何とも、マント・ラ・ジョリくんだりに住みたりける人は、餘程のことに非ずば來ぬは必定なり。






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