有田直央『日本サンタクロース株式会社』、『ぼくらは4月を夢見てる』(集英社 クイーンズコミックス)

By 黒猫亭主人, 2011/01/04

日本サンタクロース株式会社 (クイーンズコミックス)ぼくらは4月を夢見てる (クイーンズコミックス)2009年、集英社主催の「第2回金のティアラ大賞」で、まつもとあやかとともに「銀のティアラ」を受賞した有田直央(なお)――当時20歳。大賞は該当なし――。受賞作の「フロムエウロパ」は氷の惑星にふたりきりで暮らす女の子たちのハナシ。有田直央は、小中と不登校で高校にはゆかず専門学校にはひったものゝ、集団生活になじめず退学したてふから、筋金入りのヒッキーだが、受賞作に描かれてゐる「漫画の力」と「他者への想ひ」は、まんま彼女の本音に相違ない。

「日本サンタクロース株式会社」は、会社員としてサンタをやってゐる三人のモノガタリを描く連作だ。あることがきっかけで看護師から転職した27歳のドジッ子、50年の勤務ののち引退した老サンタ、児童養護施設で妹同然に可愛がった女の子を想ふ20歳そこそこの青年。いづれも「他者とのつながり」がテーマとなってゐる。

『コーラス』に連載された「ぼくらは4月を夢見てる」は、帯にあるやうに「神様が、少女に恋をした。」ハナシ。街を見守る「神」が、複雑化した地上界からのぼってくる思念に感化されて「こころ」をもってしまふ。その街に住むある女子高生は、海外暮らしの父親とはなれ、祖父とふたり暮らしであったが、祖父の死後は、従姉との携帯メールによる「きづな」だけを頼りにして、祖父に習ったピアノを弾くことも封印してしまってゐた。神さまは、その変化を気にするあまり、天界から落ちてきてしまふ。軈て、その女子高生に惹かれてゆくやうになり……。

女子高生の恢復=成長譚であるが、触媒となる神さまの方に成長はない。たゞ、神さまにとって、未来は祝福されてをり、これはひとつの恢復譚といへよう。

ちなみに、「サンタクロース」に所収の「きみのすべてがすきなんだ」と、『コーラス』2月号附録――MEN’S CHORUS てふ小冊子だ――所収の「願い ねんねこ」――事故で父母を亡くし、たいせつなのは兄だけだった弟くんが、猫を飼ふことで、周囲とのつながりを求めるやうになるハナシ――の登場人物は関西弁をしゃべってゐるが、有田直央は、尼崎市高田町出身であった。

LINEで送る
Facebook にシェア
[`evernote` not found]