TV化もされた『天体戦士サンレッド』のくぼたまことが、『モーニング・ツー』で連載してゐた作品。だか、サンレッドと異なり、こちらには正義の味方である超人戦士アースカイザーはまったく登場しない。巻頭に「この物語は、そんなヒーローの存在など微塵も感じさせない悪の組織の日常を記録した、愛と感動の物語である」とあるやうに、静岡県内に散在する数々の悪の組織――ト、悪の個人たち――の日常を描くものだ。
あとがきで、作者じしんが「悲しい笑い」をテーマにした作品がおほいと自解するやうに、描かれる悪の怪人たちは世界征服や日本壊滅を目標に活動しつつ、ふつうの一般市民的生活を送ったり、お笑ひ藝人になっちゃったりしてゐる。かういふ世界観、かつて『千林怪人日記』を書いた小生としては、愛読せずにをれやうか。
作者みづから「泣き」の漫画になってると書いてゐる、第2巻の「悪の組織メヒド篇」――メヒドは世界征服が目標で、人類抹殺ではないため、人殺しなんかしない――は、たしかに感動モノで、連載時にも評判がたかかったさうな。じつは、連載時の最終回には「悲しい笑ひ」のルゴー篇と「泣き」のメヒド篇の2案があり、けっきょく前者をとったてふ経緯があったさうだが、単行本には後者も収録されてをり――そのため、メヒド篇は、連載時と異なる配置で収録されてゐる――、連載時に愛好してゐたひとには感動倍増であらう。ともに暮らしてゐる姉弟を守るべく、組織の首領ムババ様が口にする決断の、
「拉致したって 思われたっていいよ 私達は悪の組織なんだから――」(p.147)
ト、これにつづく台詞には、まことに泣かせられるではないか。