贔屓の文學者・作品

名前 贔屓作品 コメント
文學者
小沼 丹 「ゴムの木」
「椋鳥日記」
「山鳩」
「鳥打帽」
「夕焼空」
早大の英語の先生でもあった小沼丹(ヲヌマ・タン 本名 救[ハジメ])は、最初のウチこそフィクションを書いてゐたが、最初の夫人の死をきっかけにフィクションへの興味を失ひ、師・井伏鱒二讓りの輕妙なる作風を活かしたエッセー風小説へと轉ずる。だが、そのテーマは常に「喪はれゆくもの」であり、中期以降の作品は、全てといってよいほど「死者」の追憶を描いたものとなる。しかしながら、日常を極めたところで、反轉した非日常がふと這入り込んでくる點、所謂私小説とは一線を劃すると云へよう。他に類を見ない剽味ある文體は、小生に大きな影響を與へてゐたりする。
結城信一 「文化祭」
「星の聲」
「空の細道」
「園林のほとり」
「去年のこほろぎ」
「山毛欅」
「花のふる日」
最初のうちこそ「第三の新人」に括られてゐたが、その後は獨自の存在として逝った孤高の作家(でも、吉行淳之介が弔辭を讀んでゐる)。一貫して「他界への通路としての少女」に捕らはれた作風は、慥かに甘たるさに溢れてはゐるものゝ、その切なさゆゑに甘美でもある。はっきりと「他界=死」の近付いた晩年は、その甘たるさが昇華されて、新潮日本文学大賞の受賞に結び付いた。「女の子への畏怖と憧憬」がテーマであった小生が惹かれたのは當然として、その作品を知ったのは晩年も良いところであり、未讀の作品が多々あって、迚も殘念。古本屋でもナカナカ出ないし、困ったものだ。
ト思ったら、小生滯佛中の2000年に、未知谷から『結城信一全集』全3巻が出た。歸國後周章てゝ購入するも、實は「選集」なること判明。殘念。
更にその後、講談社文藝文庫からも出づ。一人でも多くの人に知られんことを。
宮原昭夫 「指」
「誰かが触った」
「禁漁区」
「はりがみ」
「供物」
「石のニンフたち」
「海のロシナンテ」
「われらの街」
「思春期の女の子たちの非日常へとずれこむ感性」を描いてデビューした宮原昭夫は、以後も、子供から思春期までの本人達もが持て余す「非日常的神經症少年・少女」を描き續けて、小生の贔屓となってゐたが、最近では子供を描かなくなってゐるやうだ。にも拘らず、現在形を連續させる謂はゞ「宙づり文體」は、作品内容と相俟って、獨特の魅力を有してゐる。彼には又、一連の「私小説モノ」もあり、こちらはその文體の「ユーモア性」が、女房に逃げられた男の「遣る瀬なさ」を際立たせる効果を持つ。なほ芥川賞を取った作品は、兩者の中間的作品である。さらに、珍妙な仲間達と共同船主ライフを描いた「ロシナンテもの」は、彼の本質でもあるユーモアぢからが遺憾なく發揮されて抱腹絶倒。
別役 実 「そよそよ族の叛乱」
「黒い郵便船」
「そよそよ族伝説」
「諸国を遍歴する二人の騎士の物語」
「街と飛行船」
「探偵物語」
「《青いオーロラ号》の冒険」
「夕日を見るX氏」
「地図の街の花嫁」
「淋しいおさかな」
「少年の死」
「遠くにいるアリス」
ご存じ日本劇作家界の重鎭、現役最多の戲曲數を誇る大劇作家は、現在の作風も大好きであるが、初期の「そよそよ族の叛乱」が一押し。別役作品の基本形である「惡夢のメールヒェン」的イメージを持ち、かつ初期作品に屡々登場、後には一册をなす「探偵X氏」を主人公とするこの作品は、些か粗さを殘すものゝ、後に童話「そよそよ族伝説」(全9巻を豫告しながら、3巻しか出てゐない、スターウォーズの如き作品)へと發展する「手觸り」を有してゐる。また、故・中村伸郎と故・三津田健に當てゝ書かれた「諸国を遍歴する二人の騎士の物語」は、是非上演したい作品。別役の本質は、後期に這入って益々「童話性」を強めてゐるが、その宮澤賢治性の發露「青いオーロラ号の冒険」や、「そよそよ族伝説」の原型とも云ふべき「黒い郵便船」などの「童話」は、戲曲とは別にもっと評價されるべきであらう。
安部公房 「燃えつきた地図」
「第四間氷期」
「箱男」
「石の眼」
これ亦、惡夢の御伽噺「壁」で芥川賞を受賞し、その乾いた雰圍氣から、最も「非日本土着的=國際的」とされた安部公房は、その實、極めて「土着的」なイメージを有する。SFとして發表された「第四間氷期」にせよ、「都會」をモチーフとする「燃えつきた地図」にせよ、主人公のみは、些かも乾いてゐないのだ。小生は、中學2年で「密会」を讀んでハマり、直ちに圖書館で作品集を讀み漁ったが、長編で破綻してゐない作品がないのに駭いたものであった。しかし、それを補って余りあるその文體とモチーフに惹かれて今に至る。でも「砂の女」は、逆立ちしても好きにはなれない。
堀口大學 外交官・堀口久萬一(漢學者でもあった)の息子として、青年時代をフランスに過ごした彼は、その語學力を活かした譯詩集『月下の一群』やサン・テクスの飜譯が第一に知られるが、筑摩から出てゐる全集の詩集篇を讀まれたい。その飄味(語呂合はせが大好きで「地口/堀口/勝手口」てふ詩もある)の裏に隱された詩人の眼は、餘人に見拔けぬ詩を作る。宮中歌會始に召人(めしうど)として呼ばれ、「魚」てふお題に應へてこんな詩を詠むのは彼だけであらう:「深海魚 光に遠くすむものは つひにまなこもうしなふとあり」。
尾形龜之助
八木重吉 「秋の瞳」
「悲しき信徒」
神戸・御影高校の英語教師を務めつゝ、詩を書き繼いだ夭折の詩人(肺結核で亡くなったのは28のときであった。しかも、その後、殘した家族も次々と結核で亡くなってゆく。幼子さへも)。その詩は短いものが多いが、祈りにも似て、誰の心にも染みいってくる。別役実は、八木重吉に觸れて、自分の中で言葉が濁り、もつれてきたときに讀むべき實用書と書いている(實際、別役は、その戲曲の中に、重吉の詩にインスパイアされた詩を挿入してゐる)。
Romain GARY Le Chien blanc
L'Éducation europeenne
 第二次世界大戰中は France Libre (自由フランス軍)の空軍に屬し、戰後は外交官としてロサンジェルス總領事迄勤めたガリは、最初、『ヨーロッパ式教育』抔で、戰爭を起こす人間の愚かさと、その非常時に現はれる人間の尊さを描いたが、その後は、人間の愚かさに對する「不機嫌さ」に滿ちた『白い犬』(當時の妻、ジーン・セバーグの援助せる黒人公民權運動と68年五月革命を舞臺に、體制派は勿論、反體制派の「どうしようもなさ」を描く)抔を著すが、1970年、嘗ての妻セバーグの謎の死(他殺説消えず)の後、拳銃自殺を遂げる。死後發見された短文により、ゴンクール賞を辭退した覆面作家エミール・アジャール(Emile Ajar)が、實は彼であったことが明らかになり、生涯で二度ゴンクール賞を受賞したことでも知られる。
Antoine de SAINT-EXUPÉRY Le Petit Prince
Terre des hommes
Le Pilote de guerre
 ガリと異なり、親米派なるがゆゑに、嫌米派のド・ゴールに疎まれたサン・テクスは、
Raymond QUENEAU Zazie dans le métro
L'Exercice du style
Le Vol d'Icare
Honoré de BALZAC Illusions perdues
Splendeur et misère de courtisane
César Biroteu
稻垣足穗 「一千一秒物語」
「星を造る人」
「星を賣る店」
「第三半球物語」
「セピア色の村」
「或る小路の話」
「黄漠奇聞」
尾辻克彦 「肌ざわり」
「シンメトリック」
「お湯の音」
「星に触わる」
「風の吹く部屋」
堀 辰雄 「あひびき」
「美しい村」
「鳥料理」
「旅の繪」
「コント」
「エトランジェ」
「繪はがき」
「魔法のかかった丘」
「巣立ち」
「ルウベンスの僞畫」
原 民喜 「父が生んだ赤ん坊」
「畫集」
「夜」
「繪にそへて」
「夏の花」
「心願の國」
「美しき死の岸に」
井上ひさし 「十一ぴきのネコ」
「吾輩は漱石である」
「十二人の手紙」
「喜劇役者たち」
「さそりたち」
「仇討」
「雨」
「イーハトーボの劇列車」
「月なきみ空の天坊一座」
森 雅裕 「モーツァルトは子守唄を歌わない」
「さよならは2Bの鉛筆」
「マン島物語」
「平成兜割り」
「ビタミンCブルース」
「マンハッタン英雄未満」
音楽とバイクと刀劍を偏愛する凝ったミステリが多い。ハードボイルド調で、臺詞に特徴があり、それを愛する人も數多。因みに「さよならは2Bの鉛筆」には、女子高生ハードボイルド・ヒロインの鷲尾暁穂が、矢作俊彦の作品を初版で揃へてるてふ描写が出てくる。
大沢在昌 「感傷の街角」
「漂白の街角」
「新宿鮫」
「炎蛹」
「風化水脈」
「湯の町オプ」
「らんぼう」
「心では重すぎる」
「佐久間公シリーズ」「新宿鮫シリーズ」「アルバイト探偵(アイ)シリーズ」他、無茶苦茶沢山作品があるので、追っかけるのも大変だが、折に触れ読み返すのは、大人の「渋さ」では叶はないと感じた作者が、若者の「青さ」を逆手にとって作り上げたハードボイルド・佐久間公三部作。近作の主人公たちは――あのアルバイト探偵・冴木隆(リュウ)くんでさへ――お気楽さが減って、些か寂しいが、新宿鮫VII「風化水脈」なんかの「渋い」人情話もエヽわあと感じるやうになったのは、こっちも歳を取ったせゐか。
矢作俊彦 「リンゴォ・キッドの休日」
「スズキさんの休息と遍歴――またはかくも誇らかなるドーシーボーの騎行――」
「あ・じゃ・ぱ(ん)!」
「ららら科學の子」
「ロング・グッドバイ」
長嶋茂雄と自動車を愛するハードボイルド。最近の作品は、大抵、二玄社から出てゐる自動車雜誌『NAVI』に連載されてゐる(因みに「スズキさん……」の主人公のモデルは、『NAVI』の鈴木編集長らしい)。そもそもデビューは漫畫家で、その後も大友克洋が繪を描いた「氣分はもう戰爭」なんかもあるし、「スズキさん……」ぢゃ、中のイラストも描いてゐる。チャンドラーを「スズキさん……」「あ・じゃ・ぱ(ん)!」はお笑ひ風味が這入ってゐるが、そもそもハードボイルドな文體てふのが、容易にお笑ひに移行できることの證左ならん。神奈川縣警の二村永爾(フタムラ・エイジ)刑事モノの作品群があるが、二村は、「ロング・グッドバイ」では退職してしまった。「あ・じゃ・ぱ(ん)!」の僞日本戰後史や、「ららら……」の中國の山奧から30年ぶりに歸國した主人公てふ、現代日本を照射するための裝置には感心。
「あ・じゃ・ぱ(ん)!」で三島賞をとったが、イマサラ賞なんか授与してどうするって感じ。
舞城王太郎 「煙か土か食い物」
「世界は密室でできている」
「阿修羅ガール」
「みんな元気。」
福井出身の覆面作家。インターネットを検索すると、ブランショの顔の画像は2枚ほど見つかるが、当然のことながら、舞城王太郎の画像は皆無である。ミステリの形式をとりつつ、一人称による超口語文体と超漫画的描写でもって、エロでグロでポップで、ペシミスティックなオプチミスティックな世界を紡ぎ続ける。内容的には、概ね主人公のショーネン・ショージョたちの成長モノガタリ。
「阿修羅ガール」は三島賞をとったが、これは三島賞の最近の傾向を示してゐよう。
江國香織 「つめたいよるに」
「きらきらひかる」
「ホリー・ガーデン」
「ぼくの小鳥ちゃん」
「神様のボート」
「ホテルカクタス」
「いつか記憶からこぼれおちるとしても」
「思いわずらうことなく愉しく生きよ」
親父さんの江國滋も良かりしが、このひとの文章にはメロメロ。童話賞でデビューせるためか、初期のものは童話風のにほひが濃かれど、最近は、三十代の女性たちの日常バナシも多し。されど、文體には一貫せるにほひ殘りたり。基本的に、日常に何やら「奇妙な味」のまぢりたる――ときには、はっきりとファンテズィック(ex. ホテルカクタス)なものも――作風にて、それがソコハカとなき不氣味さを釀しつゝ、透明な讀後感を殘せるあたり、名人か。ところで、男のひとと女のひとぢゃ、評價・感想が異なりさうな感じなるが、如何……?
作品名 作者 コメント
作 品
「原民喜」
「ユリアとよぶ女」
「夫婦の一日」
「聖母讃歌」
「もし……」
「ぐうたら交友録」
遠藤周作
「心臓」
「アポロンの島」
「生のさ中に」
「悲しみ」
小川國夫
「のん・しゃらん記録」
「美しい町」
佐藤春夫
「治療」
「夕焼けの色」
「菓子祭」
吉行淳之介
「羽ばたき」
丸元淑生
「星占い師のいた街」
「ポケットの中のキリン」
竹下文子
「風ふたたび」
永井龍男
「骨を噛む」
高橋揆一郎
「九月の空」
高橋三千綱
「綱の上の少女」
片岡鐵兵
「紙女房――楼閣興信所通信――」
唐 十郎
「家なき子」
「おとしばなし李白」
石川 淳
「プールサイド小景」
「静物」
「仕事場」
庄野潤三
「夢みる少年の晝と夜」
福永武彦
「たけくらべ」
樋口一葉
「東京日記」
「サラサーテの盤」
「ゆふべの雲」
内田百間
「翡翠色のメッセージ」
加藤幸子
「夏わかば」
野坂昭如
「返り花」
野口富士男
「天窓のあるガレージ」
「星の流れが聞こえるとき」
「砂の街」
「羽化」
日野啓三
「ガラスの靴」
安岡章太郎
「靜かなる羅列」
「蠅」
「日輪」
横光利一
「鯉」
井伏鱒二
「かぶさんとんだ」
五味太郎
「やっぱりおおかみ」
ささきまき
「きょうはなんのひ?」
瀬田貞二・作
林 明子・繪
「月夜のバイオリン」
萩尾望都
「木曜日のとなり」
吉田とし
「はじめてのおつかい」
筒井頼子・作
林 明子・繪


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dernière mise à jour: 2005/02/12