《意味》の生まれる場所
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静かに公園の奥からやってくると、子供は若い娘の前に立った。 ――おなかすいた、と、子供は云った。 それが、男にとって、会話に加わるきっかけとなった。 ――実際、おやつの時間ですよ、と男は云った。 若い娘は気を悪くもせず、逆に、男に向かって共感の微笑みを投げ掛けた。 ――ほんとに、たぶん四時半ちかくだと思います、あの子のおやつの時間です 彼女は、ベンチに置かれた傍らの籠の中から、ジャムを塗ったタルティーヌを二つ取り出すと、子供に与えた。そして、ナプキンを器用に子供の頸の回りに結んだ。男は云った。 ――おとなしい子ですね 若い娘は否定のしるしに、首を振った。 ――わたしの子ではありませんの、と彼女は云った。 子供は、タルティーヌを持って向こうへ行った。木曜日だったので、その公園は子供で一杯だった。大きな子はビー玉や追っかけっこをして遊び、小さな子は砂場で遊び、もっと小さな子は、乳母車の中で、一緒に遊べる時が来るのを辛抱強く待っていた。 若い娘は続けた。 ――あの子はわたしの子みたいですし、よく、わたしの子だと思われるんです。でも、違うと云わなくちゃなりません、あの子はわたしと何の関係もないんです。 ――判ります、と男は微笑みながら云った。 ――私にも子供は居りません ――ときどき変な気がしますの、こんなにたくさん、そしてあちこちにいるのに、自分には一人もいないっていうのが。そうお思いになりません? ――そうですね、お嬢さん。でも、もうずいぶん居るじゃありませんか ――でも ――ですが、子供が好きで、子供をたいそう気に入っているのなら、そんなことは、それほど大したことではないのではありませんか? ――逆のことだって、云えませんか? ――そうですね、お嬢さん。えゝ、それは、その人の性格に依るでしょう
(Duras, Le Square)
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