大阪市立大学インターネット講座2001

《意味》の生まれる場所
――言語理解システムの探究――



第7回



3. 「伝えたいこと」と「伝わるもの」

 たとえば、次の「発話」の「意味」とは何でしょうか。

(11)
  1. 駐車禁止
  2. ここに車を停めるな!
 (11a)は単語、(11b)は文章という違いはありますが、もちろんいずれも「車を停めるな」という「意味」ですね。
 では、次の「発話」はどうでしょう。

(12)
  1. あゝ、また車が停まってる!
  2. いやあ、この道ね、細いけど、バス道なんですよね
 これらも(11)同様、「車を停めるな」という「意味」です。でも、(11)が「車を停めるな」という「意味」になるのは当然だけど、(12)がそういう「意味」になるとは思えない、と云う方がいらっしゃるかもしれませんね。もしかすると、(12a)はそう認められても、(12b)は認められないと云う方もいらっしゃるかもしれません。ですが、どちらの発話も、「車から降りた人に聞こえよがしに発話している」というような「コンテクスト」を補えば、たちまち「車を停めるな」という「意味」になるのではないでしょうか。
 さらに云えば、(13)も同じ「意味」を表わします。

(13) あっこに、綺麗な花咲いてまっしゃろ? あれねえ、あっこのご隠居はんが、まいんち水やらはったり、何やかんやしはって、えらい丹精して咲かしたはりまんね。ほれ、あっこでっせ。あっちの方からずうっと咲いとって、ほらもう見事なもんでんねんけど、何や、陰なっとって見えしまへんなあ、ほんま勿体ない

 一体(13)のどこが「車を停めるな」になるんだ、と云う方もいらっしゃるかもしれませんが、ここでもまた、「駐車禁止の標識をちらちら見やっている」などの「コンテクスト」を付け加えれば、そのような解釈も妥当になると思われます。
 かくして、(11)(12)(13)はすべて同じ「意味」の「発話」ということになりました。ですが、(11)〜(13)が同じ「意味」になるためには、「コンテクスト」というものを導入する必要がありました。たしかに「コンテスクト」がなければ、(12b)(13)は、発話者の「車を停めるな」という「意図」を伝えられないようにも思えます。ということは、実は(11)〜(13)には、一種の「スケール」のようなものがあるのではないでしょうか。つまり、(14)のような図式です(10)

(14) 意図伝達度大             意図伝達度小
←――――――――――――――――→
(11a)/(11b)    (12a)    (12b)  (13)

 「コミュニケーション」においては、「伝えたいこと」を「伝わりやすく」発話するものでしょうから、「標準的発話」というものは(11)のようなものであって、(13)は「周辺的発話」と考えられます。
 実は、このような「伝わりやすさ」を如何にして産み出すか、ということについて思弁した人がいました。イギリスの哲学者・グライスです。そこで、このグライスの考えたことを見てみましょう。


【注】
  1. 当然、この(14)を「コンテクスト」の点から観るならば、次のような図式を得るであろう。
    (n1) コンテクスト依存度小         コンテクスト依存度大
    ←――――――――――――――――→
    (11a)/(11b)    (12a)    (12b)  (13)


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