《意味》の生まれる場所
――言語理解システムの探究――
第4回
しかしながら、現実の「コミュニケーション」においては、「発信者」の「メッセージ」が「受信者」に郵便か宅急便の如く送り届けられるとは限りません。諸々の「障碍」によって、歪曲される場合も多いのではないでしょうか。その辺の消息を、電気通信の譬喩からモデル化したのが、シャノンとウィーヴァーによる図式です。
(3) コミュニケーション・モデル B
(Shannon & Weaver 1949: 14, 46)
既に古典となったこの図式の示すところは一目瞭然でしょう。つまり、メッセージの伝達には「ノイズ」が介入することがある、というわけです。
しかしながら、この図式は直ちに、一般的コミュニケーション図式としては使えません。ウィーヴァー自身が指摘していますように(2)、(4)のような図式の方がより一般的でしょう。
(4) コミュニケーション・モデル C
(Shannon & Weaver 1949: 37より作図)
云うまでもなく、この図式における「意味ノイズ」は、送信者がメッセージを送信用信号に変換する際に介入する「何らかの干渉」を示し、「意味受信機」は、受信者が受信された信号をメッセージとして復元する際に介入する「何らかの変換装置」を表わしています。つまり「メッセージ」は、「送信者→信号」間と「送信機→受信機」間と「受信機→受信者」間の三ヶ所に置いて「歪曲」される虞れを持つというわけです。
なるほどこれは、わたしたちのコミュニケーションにたいする感覚に合致している気もします。しかし、どうでしょう。「ノイズ」や「意味受信機」とは、厳密に云えば何に当たるのでしょうか。そこで次に、もう少し言語学的な視点からのコミュニケーション・モデルを見ることにしましょう。
【注】
ウィーヴァーは、コミュニケーションの問題を考察するには次の3つの段階があるとする(Shannon & Weaver 1949: 10)。すなわち、
段階A.どのようにして、コミュニケーションの記号を正確に伝達できるか(技術的問題)
段階B.どのようにして、伝達された記号が、伝えたい意味を正確に伝えるか(意味論的問題)
段階C.どのようにして、受け取られた意味が、発信者の望むように相手の行動に影響を与えるか(効果の問題)
そして、(3)の図式は段階Aまでしか説明できないが、(4)のように拡張すれば、B、Cも説明できるようになるとする(Shannon & Weaver 1949: 37-39)。
【参考文献】
SHANNON, Claude E. & WEAVER, Warren (1949)『コミュニケーションの数学的理論』(The Mathematical Theory of Communication)[長谷川淳・井上光洋]明治図書出版, 1969.
水谷 雅彦 (1997)「伝達・対話・会話――コミュニケーションのメタ自然誌へむけて――」谷泰編『コミュニケーションの自然誌』新曜社.
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